10/29(日)「猿とモルターレ」アーカイブ・プロジェクト in 大阪のワークショップに出かけた。瀬尾夏美さんの陸前高田についての文章「二重のまち」を何度も読み直すというもの。土で埋め立てられたまちと、かさ上げされた土の上にあるまち。いまから2011年から20年後の2031年に、その土の上からかつてのまちのことを思うとき、どんな思い至り方があるか。その思い至り方について春夏秋冬、四つの季節に分けて物語は記されている。
それぞれの季節は6ページの長さで、計24ページ。ゆっくり読み上げると一つの季節で4分くらいかかる。これを何度か違うやり方で朗読する。
まずは砂連尾理さんの指示で、12人の参加者が2ページずつ、それぞれのやり方で読む(少し「身体に負荷をかけるようなやり方で」)。てくてく足踏みしながら話す人、ときどき猫の鳴き声がはさまる人、風の音だけで読む人。なかで、最初に、口角を引っ張ったまま読んだ人がいて、その読み方だと、「とびら」ということばが「たいら」ということばに聞こえるのがとても印象的だった。わたしはすべての子音を抜いて、母音だけで読んだ。
海 は ウイ
山 は アア
ふるさと は ウウアオ
アエアイオアイウウアオ は かけがえのないふるさと
次に、この最初の朗読の中で印象に残ったことばについて、誰かに伝えるように語る、というワーク。昼の休憩時間に、各自、その語る様子をスマホで自撮りして、それをYouTubeにアップロードし、あとで全員分をみんなで鑑賞する。外は台風の雨で、その中で傘をさして読む人あり、屋内で上を見上げたまま読む人あり、近くの地下鉄まで移動して読む人あり。土の上と土の下の物語だから、垂直方向に意味のある場所で読むのを見るのは、それだけで想像力をかき立てられる。
わたしは昼食を食べにでかけて、たまたま通りがかった電話ボックスに入ってみた。電話ボックスに入るのはたぶん10数年ぶりで、その時間の隔たりで20年を考えるといいかなと思った。意外にもボックスの中は10数年ぶりとは思えないくらい居心地がよい。スマホを電話の上に置けば、両手を自由にして自撮りできる。
春の最初の部分、「とびら」が「たいら」にきこえた
そのとびらは垂直のたいらで
垂直のたいらをあけて、ずうっとおりていって
水平のたいらにいくのだな
とびらをあけたいらいくのだな
とびらをあけたいら、あけたくないら
こどもはあけたいらこのたいら
あけたいらいきたいらたいら
みたいらあるきたいら
わたいらのたいらふみたいら
第三の朗読は三人一組で各季節を朗読する。やり方は話し合って決める。えとうさんといわきさんとわたしで冬。まず、きいている人を撮ろう、というのが決まる。きいている人はテキストを顔の下に掲げて、朗読する人はそれを読む。テキストと顔が近いから、読んでるようでもあり、顔を見てるようでもある。それを斜め横から撮る。自然と三人は正三角形に座って、役割を交代しながら読むことになる。別に決めてたわけではないけど、一人が読み終えたらいちいち合図を出さず、黙って次の人にスマホを渡して撮り続けたら、4分のショートフィルムみたいになった。
やってるときはほとんど朗読の声しかきこえなかったのだが、あとで出来上がった動画を見たら、意外に周囲で他の参加者の話し合いなどがきこえて驚いた。4分のあいだ自分の耳は、この賑やかな場所で、朗読の声だけをピックアップしてたのだな。
三人それぞれの表情にも、朗読につれて確実に眼の大きさやまばたき、微細だけれど細やかな変化が起こっていて、こんなのが撮れるのかと自分たちでやって驚いた。
あとでみんなの感想をきくと、何人かから「こわい」という感想が出たのも意外だった。テキストを顎の下に構えているのは、パレスチナの難民がパスポートを掲げさせられているのを思い出させる、というコメント。そう言われてみればそうだ。そういうことも気づかないくらい、この方法に入り込んでいた。「二重のまち」というテキストの力も大きかった。
このやり方、少し改変が必要だけれど、はなす/きく/とる、ということを三人一組で交代しながらやるのは、なかなかよいワークだと思った。たとえばこんな具合に。
・簡単なテキストを用意する。三分割して、三人で分担して読む。
・正三角形に座る。膝詰めくらい、ごく近く。
・三人はそれぞれ、かたる/きく/とる、の役をになう。
・とる人は、きく人をとる。
・かたる人は、きく人をみてかたる。
・きく人は、かたる人をみる(とる人をみるのも、いいかも)。
・かたりおわったら、かたる人はとる人に、とる人はきく人に、きく人はかたる人に。
・三人がかたりおえたら、おしまい。
テキストは、きく人が掲げるのがよいと思う。きく人は、少し両手を前に突きだして本を広げる感じ(胸に掲げると連行された人の証明写真を連想させてしまうので)。暗誦して、相手を見ながら語ってもよい。いずれにしても、ある程度長さがあるものがよい。きく人の変化には、時間がかかるので。
思いがけなくエモーショナルな体験。何か別のテキストを選んでまた誰かとやってみたい。
最後に、全員で「二重のまち」を声を出して読む。12人と砂連尾さんと瀬尾さん。あちこちで声はずれ、わたしではない声がわたしを追い、わたしの声が誰かを追うのをきく。お互いがお互いに寄り添う幽霊でいるような、奇妙な感覚。二重の声。