“What a Shame About Me” by Steely Dan

 2000年の”Two against Nature” から。個人的にはスティーリー・ダンのなかでいちばん好きなアルバム。この”What a Shame About Me”は大学時代の同級生との再会を歌っているのだが、もしかしたら”Peg”で歌われているスターとなった女性とのその後かもしれない。少なくとも「昔の学校の頃に戻って」というところをきいて、「もう二度と戻るもんか、昔の学校の頃には」という”My Old School”の歌詞を思い出さないファンはいないだろう。2000年の歌ということもあって「おめおめ滑り込む新世紀 Sneaking up on the new century」という部分がいかにも情けない。最後のShame!という女性コーラスの切れ味があまりにすばらしいので訳に加えてしまった。


“What a Shame About Me”

一日仕事に精を出していた
ストランド書店で古本を並べてると
ふらりと入ってきたのはフラニー、ニューヨーク大学以来だ
あの頃はちょっと深い仲だったが
今の彼女の映画やショウやCDのことを話した
他に話すこともなかったから
彼女は言う、そうね、ハリウッドは暮らしやすいわ
ところでどう、あなたの方は

あいかわらず小説を書いてるけど
そろそろ潮時かもしれない
だって将来のことも考えなくちゃいけないし
このままかもだし
まったくこんなことになるなんてね
消え入りたいよ

彼女は言う、ねえ、誰かに会った?
昔の仲間に
ボビー・ダカインはブンセン賞をもらって
今度新作を出すんだって
アランはスティーマー・ヘヴンズの支店を持ってて
バリーはソフトウェア王でしょ
誰かが80年代のはじめに言ってたけど
今度はあなたが大物になる番だって

いや、それはただの噂だよ
まあ元気にやってるけどね
リハブから戻って3週間
その日暮しで
おめおめ滑り込む新世紀
消え入りたいよ

消え入りたいよ
大学のジェーン・ストリートに日が昇って
非常階段で女神みたいだったのは君

立ち話も話題が尽き
もうどん詰まりというところだった
じゃ、元気でねと言おうとしたとき
彼女はぼくの手をとってこう言った
「ねえ、いいこと思いついたんだけど
すごくすてきじゃないかな
タクシー拾ってわたしのホテルに行って
二人で昔の学校の頃に戻ってみるの」

そうだね、君はとてもそそるし
こうやってすごく近くにいるし
でもここはロウアー・ブロードウェイで
君が話してる相手は幽霊なんだ
よく見てごらん、すぐ目が覚めるから
消え入りたいよ
消え入りたいよ

恥!恥!

by D. Fagen and W. Becker (試訳:細馬)

“Razor Boy” by Steely Dan

 ”Countdown to Ecstasy” の二曲目。
 リッキー・リー・ジョーンズが言う「それはシニカルでもあるし、ちょっとなんていうか…女嫌いなところがあった。ほんと、自分たちが心底嫌ってる女に取り憑かれてる感じだった」ということばにまさにぴったりの歌。
 歌われている女性の浸っている男、レイザー・ボーイはドラッグ・ディーラー、もしくはドラッグそのもののようにもきこえる。そう考えると、これは1970年代版「ミニー・ザ・ムーチャ」なのかもしれない。サビのコーラスがひどく美しい。

“レイザー・ボーイ”
まだ昔のうたを歌ってるんだってね
ぼくはもう泣かない
これで終わりだってわかってたよね
もう何年も
君はギャンブルしたり片っ端からつぎ込んで
良き伴侶といようとしたけれど
ともだちが何人集まったら
君を笑わせることができるんだろう
君にはまだ歌ううたがあるだろうか
あのレイザー・ボーイがきて
君の淡い望みを奪い去っても
君はまだ歌っているだろうか
あの寒い風の日がきても
もうすぐそこまで来ているよね
君は平気なんだな
たぶん商売女でなきゃ
こらえることはできないよ、
失った哀しみを
もう明日なんかこないかもしれない、
眠ってしまったら
拒むことはできない
君にはまだ歌ううたがあるだろうか
あのレイザー・ボーイがきて
君の淡い望みを奪い去っても
君はまだ歌っているだろうか
あの寒い風の日がきても
by D. Fagen and W. Becker (試訳:細馬)