Oh My Darling, Clementine (英語版Wikipedia)。いとしのクレメンタインの歌詞。単行本に載せたのは、Raph, Theodore “The American Song Treasury 100Favorites” Dover Publication, Inc. New York. (1964)に書かれたものですが、Wikipediaにはさまざまなバージョンの歌詞が掲載されています。
キャブ・キャロウェイといえば、ベティ・ブープのカートゥーン「Minnie the Moocher」「Snow White」「The Old Man of the Mountain」をはずすことはできません。キャブとアニメーションとの関わりは「ミッキーはなぜ口笛を吹くか」(新潮選書)に譲るとして、ここでは、彼の足の動きを見事に写し取った「Snow White」を見てみましょう。
”Wouldn’t it be nice if we were older” という言い方ができるんだな。大人になるということは「未来」のできごとだけれど、それを仮定法の「過去」で考える。そういえば日本語でも「大人『だったら』素敵だろうな」と言える。いま現在、実現していないことは、それが未来のことだろうと過去にあったことだろうと、仮定の上では過去になりうる。
曲のほとんどはこの「〜だったら素敵だろうな」という夢で占められているのだが、最後にゆっくりと現在が歌われる。「話せば話すほど/今それなしで生きていること(live without it)がくるしい」。しかしその現在の「live」は、コーラスによってとてつもなく甘く響く。曲は、現在を夢に誘うように「おやすみ」で閉じられる。もしかしたら、イントロのメリーゴーラウンド音楽のようなリバーブは夢の合図で、この曲全体が夢なのかもしれない。
先行発売された「I Don’t Know」をきいて、ちょっと驚いたのはこの曲に見られるメランコリックな気分だ。若い人が「どこで間違えたんだろう?」と自問自答する歌をうたっているのなら、まあまたやり直しがきくじゃないかと慰めることはできる。でも、もう64才をはるかに過ぎ、70代後半になるポールが、行き先も見えずに迷う歌をうたうとき、それはもう取り返しがつかない感じがする。男女の人形が並んだPVを見ながら、わたしは、ベルリンで我が身を振り返るデヴィッド・ボウイの「Where are we now?」のことをちょっと思い出したりもした。