「麦と兵隊」と「これが男の生きる道」の関係については、「うたのしくみ 増補完全版」p.300-307に書いたのだが、その後、さらに関連書を読んだり、「大友良英のJAMJAMラジオ」で話したり、放送内容についてコメントをいただいたりして、少し補足すべきことが出てきたのでここにまとめておく。
大友良英のJAMJAMラジオ(2021年5月29日)podcast版
大友良英のJAMJAMラジオ(2021年6月5日)podcast版
・小林信彦「決定版 日本の喜劇人」新潮社のp.360に「大仰な、悲劇的イントロがあって、〈帰りに買った[福神漬]で……〉と始まったとき、ぼくはいやでも「麦と兵隊」のメロディを想い浮べた。すぐにそう連想するのは、当時、三十になるかどうかというぼくたちの世代が最後だったかも知れない。」([ ]内は傍点)とある。小林信彦は昭和7年生まれ。昭和一ケタ以前の人(植木等やクレイジー・キャッツの面々もそうである)にとって、二つの歌の類似がすぐに連想されることの証左だろう。
・いかりや長介(昭和6年生まれ)、高木ブー(昭和8年生まれ)、荒井注(昭和3年生まれ)ら昭和一ケタ生まれを中心とするドリフターズも、戦前戦中の歌をしばしば唄った。「ドリフのズンドコ節」は「海軍小唄」の替え歌であり、6番では、いかりや長介が「元歌!」と号令をかけて全員で唄う。「ドリフのほんとにほんとにご苦労さん」は「軍隊小唄」、「ドリフのパイのパイのパイ」は「東京節」(ジョージア行進曲)が元歌。ドリフのシングル曲の多くは替え歌であり、後述する替え歌文化を体現していると言える。また、「全員集合」という掛け声も、戦時下の集団行動を思わせる。「そういえば整列したとき身長差があって凸凹二等兵みたいな感じありますよね」とは大友さんの言。
・保利透さんから、「これが男の生きる道」と「進め一億火の玉だ」との関連性について指摘があった。最初の「大仰な」イントロは、「進め…」の方が近いかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=S11RA-9k4H0
・「麦と兵隊」と「これが男の生きる道」は、メロディだけでなく、途中から民謡が入っておどけるところもそっくりである。軍歌調から民謡への変化がなぜ起こるかについては「うたのしくみ 増補完全版」を。
「麦と兵隊」の民謡調はもともと火野葦平の小説の一場面から着想されたものだが、小説と歌とでは、唄われる場所が違っている。この問題についても「うたのしくみ」で論じた。
・「麦と兵隊」は一種の替え歌の構造をとっており、元歌は「佐渡おけさ」である。戦前・戦中のレコード、ラジオによるポピュラー音楽の隆盛は、多くの替え歌を生んだ。「はだしのゲン」では軍歌や俗謡の替え歌がしばしば唄われる。その一端については、マンバ通信「はだしのゲンの歌」で触れている。https://manba.co.jp/manba_magazines/3246