1/5 車への乗り方
奮発してタクシーに乗ろうとして、ギッときた。
椅子にはそろそろと座れば問題ないくらいには回復していたつもりだったのでこれは意外だった。が、原因はすぐに分かった。車の椅子は高く、しかも正面からアプローチできないのだ。
通常の椅子は正面に向かって空間が空いている。だから、落ち着いて椅子に向かって体軸を回転させ、膝をゆっくりと曲げ、両腕を肘掛けに預けながら座ることができる(図右)。このとき、腰から着地すると臀部が90度になりながら自身を支えようとするし、着地の衝撃がでかいのでイテテテとなる(図左)。
ところが、この座り方は、実は椅子の正面にスペースがあり、肘掛けがあることで初めて可能になる。車のシートではこうはいかない。まず、車高がプラスされているので、椅子が高い。そして正面にスペースがない。腰に問題がないときは、まず正面を向いたまま片脚と腰をぐいっとシートに割り入れて乗り込むのだが、これをやろうとしてイテテテとなったのだった。しかも車の座席は(座り心地をよくするために)底面がやや後方に傾斜しているのだが、これが座るときにかえって腰の角度をきつくしてしまう。
ネットで「車への乗り込み」「get in a car」で検索してみると、スタイリッシュな乗り込み方の画像がいっぱい出てきて、これがギックリにはいかにも異星のできごとのようでおかしいのだが、いくつかのページは高齢者や障害者の人のための乗り方、降り方、移乗方法を指南してくれている。
まず横ざまに座って、それからゆっくり(あまり腰を捻らないように)前方に回転する。着地は片脚ではなく両脚で行うというのがポイント。ただ、最初の横ざまに座るところは、特に車高が高い場合はけっこう腰に負担がかかるので注意しなくてはならない。台座や階段があると便利。
車への乗り込みを悩みとしている人はたくさんいるに違いなく、他にもいくつかのページに対策法が紹介されている。
それにしても、こうした移動にまつわる問題のひとつひとつを、理屈でわかるのと自分の痛みにナヴィゲートされるのとではまるで違う。ただの白地図にルートが記してあるのと、等高線付きの地図にルートが記してあるのとでは、その必然性がまるで違って見えるのと同じように。いわば、痛みと痛みの谷間が可視化される感じ。痛みの沢づたい、とでも言おうか。