1/2 爪先の引き寄せ方
なんとか歩いてもひどいことにはならないようなので、思い切って近くの喫茶店まで行ってみる。しばらくパソコンを打ってみたが、いつものようにはいかない。腰がすぐに痛くなって、もぞもぞと椅子の位置を動かしてしまう。その調節に気が行って、あまり仕事にならなかった。
家に帰ってすでに位置を調節済みの椅子と机に落ち着くと、やはりこちらの方が楽。とはいえ、こちらも純然たる安定というわけではなく、鈍痛未満の違和に慣れているだけである。そして、一度落ち着き痛さを丸め込んだ腰は、そこからどの方向に動かすにもビキビキと異議を唱える。一時間くらい仕事をしてから立ち上がろうとするたびにイテテテとなる。ようやく立ち上がるとそこにも痛さを丸め込むことのできる姿勢が見つかる。離れ小島から海に乗り出し、また別の離れ小島にたどりつく心地。
昨日の靴下問題(もしくは足先を通過する筒問題)だが、二つ別解を考えた。
一つは脚を曲げる方向。これまでは、腰を下ろしてから普通に脚を縦に閉じた状態で曲げていたのだが(図左)、いったん横に開いてから爪先を手前に引き寄せる(図右)と意外に曲げやすいことに気づいた。わたしの場合はどうやら、この横開きの方が合っているようだ。横に倒すことで、脚全体が床に下りた状態で曲がるので、腰への負担が少ないのかもしれない。
もう一つは、腕の伸ばし方。靴下をはくには、腕を大きく前方に延ばさねばならない。ところがこれが実に痛い。どうすればよいか。
わたしたちは普通、腕は肩から生えていると思っている。この常識は意外に根強く、今回作図に使ったMagicPoserというスマホ用アプリでも(便利なのだが)、腕は肩から曲がるように作られている。しかし実際には、腕を大きく伸ばすときには鎖骨や肩甲骨が連動して動く。左手で右の鎖骨を触りながら、右腕を大きく前に出すと鎖骨はぐりぐり動いているのがわかるだろう。肩甲骨を押さえながら腕を前に出すと、肩甲骨も連動しているのがわかる。だから腕は肩ではなく、肩甲骨から始まっており、胸骨と鎖骨の継ぎ目のところから生えているとイメージするとよい
…というのは、昔、アレクサンダーテクニックを少し習ったときに覚えたことなのだが、問題は、腕を大きく前に出すときの腰の動きだ。理屈の上では、腕と鎖骨、肩甲骨のセットを大きく前に出せば、腕は思ったよりぐっと前に出るはずだ。ところがこれをやるとイテテテとなる。なぜか。どうもわたしの場合、腕を前に出そうとすると意識せぬうちに腰が回ったり曲がったりしているのである。たとえば右腕を大きく前に出そうとして、腰まで右に回る。両腕を前に出そうとして腰までぎゅっと曲がる。
そこで、これまで無意識のうちに連動していた腰と腕の連動を、意識的に切り離してやる。腰は背もたれにぴったりつけたまま、腕を伸ばし、さらに肩甲骨をぐいと前に出して、リーチを長くする。これだけでも、思ったよりは腕は前に出ている。
以上の別解を組み合わせて靴下をはくことにした。まず脚は横に開いてから曲げる。自然と爪先は横向きになるから靴下も横向きに構え直さねばならない。ここから腰をあまり動かさないようにして、腕と肩甲骨をぐいと前に出す。なんとか足先までたどりつき、靴下がはまる。脱ぐときもこれの逆をやる。
それにしても、これらの別解はどれくらい一般的なのか。わたしの場合は、以前から脚を横に開くポーズ(ヨガでよくやる合蹠というやつ)は苦ではなかったのでこの方法をとったが、それが辛い人もいるかもしれない。「ぎっくり腰」はあくまで総称で、症状によって感じ方が違うだろう。そこに至る来歴もひとそれぞれ。ギックリの数だけ微細な別解があるのかもしれない。