『カーネーション』再見 #53

 山の坂道のシーンがきいてくる。『チゴイネルワイゼン』のように。直子を抱える往路、直子のいない復路、直子のいない往路、直子のいない復路。
 「直子が頭から離れない」というときに、糸子は糸をはさみでぷちぷちと切っている。その音で、頭から引き剥がそうとするように。勝の頬の涙は凍ってしもやけになる。
 「人の親になるちゅうんは、なんやあわれなことなんやなあ」
 ようやく年の暮れに直子を迎えに行った糸子は子守の体ごと、直子を抱きしめる。いったん触れてから抱き直して愛おしいのではなく、もう触れるそばから愛おしいのだということがよく伝わってくる。糸子に抱き取られた直子を、勝も糸子ごと抱きしめる。まさに、人の親になるちゅうんは、なんやあわれなことなんやなあ。

 実は台詞を思い出すために、小説版『カーネーション』もときどきあとで参照しているのだが、こういう演技の細かいところは、小説版には書かれていないので見ないと解らない。