クラウドファンディングを経て出版された伊藤重夫『踊るミシン』の新装版を読んだ。伊藤重夫の絵は80年代にかけてあちこちで見かけているはずなのだが、マンガを読んだのは初めて。神戸の垂水が舞台になっていることも初めて知った。村上知彦氏の解説に『中国行きのスロウ・ボート』という一節があって、そうだ、80年代のぷがじゃの表紙に村上春樹の文章が載ったことがあったなと思い出した。
一ページの中に複数の場面が割って入ってくる。それが速読を許さない。場所と場所、ことばとことばの配置がページの中で馴染むまで、目をそのページに止めなければ、ただとっちらかった印象を追うばかりになる。表題作を最初の20ページくらい読んでから、これは明らかに速く読み過ぎていると気づいて、いつもよりペースを落としてゆっくり読み直してみた。それでようやく、この作品の速さが分かってきた。遅く読まなければ速く見えない。不思議な作品だ。昨夜読んで、今日は鳥男の足もとばかりが頭に浮かぶ。