朝から長い行列に並んでサン・マルコ寺院に入る。並んでいるあいだ、ずっと豪奢な大理石の壁を見ているうちに、例によってうんざりする。美しいと感じる前に、その贅沢さが無駄に思えてしまう。
うんざりしつつも、中のモザイク画はなかなか興味深かった。入り口に近い手前のモザイクはおそらく時代がやや奥のものに比べて新しいのだろう。炎の表現や肌の表現が細かい。
午後、せっかくヴェネチアに来たのでビエンナーレを見ることにする。が、なんだか一昨年に比べて全体的にひどく低調に思える。ざっと手帳のメモを写すと、
スイス:So what?なニューウェーブ癒やし系。デレク・ジャーマン以前。
ロシア:ロシアはたいへんそうだ。
北欧:はしっこの椅子がよかった。あとはムンク風のあおざめた絵。
デンマーク:カメラ・オブスクラや、覗き穴のオンパレード。広い空間をうまく使い切っている。見る者と見られる者。おおぜいでたのしみたい。
日本:ダブルリバーのある島と制作風景、というのだが、説明を読む気にもならない。鍾乳洞ストロボは中途半端で、壁の継ぎ目や入り口出口が文化祭風にずさんだった。
ドイツ:ただの美術館写真展・・・と思いきや、中央の部屋に一発芸が仕込んであった。
カナダ:カナダは寒い。犬はかわいい。ほとんどグールドの音楽の力。
フランス:手法おもしろし。赤と緑と黒の滴描法?展示方法も納得。作風は露店のニューアートっぽいがそれも悪くなかった。
チェコ:笑える。とくに寺巡りをしたあとは。磔刑吊り輪から神のご加護がきらきら。
オーストラリア:子供が三人座り込んでいるのでぼくも座り込んでうっかりさわったらえらく怒られた。子供のうち二人はただの観客で一人は人形だった。し
かし、偶然とはいえあんなに人形に似た子供がいるなんて。その子供の親と監視員のいないところで、まさにWe're friendsだねと大笑い。
アメリカ:美術史における黒人。しかし、白黒という記号の安易な繰り返しは「エボニー・アイボリー」並み。"dreams and conflicts"というテーマにアフガンもイラクもないとはね。
イスラエル:ここがいちばんよかった。染色体のような人の群。スペシメンとしてのユダヤの業。
オランダ:土のフィールドで遊ぼうとしてる人がいたがナイフがうまく刺さらなくて困っていた。
スペイン:なんと入り口をふさいで工事中。この手があったか。でも空振りだと思った。
ルーマニア:これはもしかして、バカスタック?
ポーランド:ダイスを転がせ
エジプト:鳩の白黒
オーストラリア:黄色い稲穂とマリア
ハンガリー:ネフェルティティ顔出し写真
・・・ああ疲れた。後々まで考えたいと思うようなものは見あたらず、ほとんど頭をかすらなかった。
最後にイタリア総合館。ここがいちばん見るものがあった。Kevin
Hanleyのカストロの顔にゆっくりピントを合わせていく映像。Dinh
Leeの写真を短冊にして組み合わせるという不思議なダブルイメージ。Ceal
Floyerのミニマルなプロジェクション。ヘレン・ミラの、軍隊のブランケットを敷いた「Coastline」の強いイメージ。
いっとうよかったのはJonas Dahlberg のuntitled (vertical
sliding)。エレベーターから延々と各階の内装を見続けるという映像。どの階も花柄のありふれた壁紙で覆われているのだが、階によって廊
下や部屋の配置が違い、ときには部屋の扉があいてあかりが洩れている。それ以外には何も起こらない。起こらないのだが、この世ならぬ気配を感じさせる。
10分ほどずっと見続けてしまった。