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20030908







 ヴェネチア
 石畳たたくしずく 湿った犬
 空低き路地抜け 広場ひとけなし
 列の人 歯がみして空を眺むる  

 アカデミア美術館。受胎告知図に出会うたびにスケッチするのでやたらと時間がかかる。しかしそのおかげで、ヴェロネーゼ 1578の受胎告知を見たとき、思わず笑えてしまった。笑えるということは、そのとんでもなさが体感できているということだ。ようやく自分にも「受胎告知」を見る目ができてきたということか。
 この絵はもともと Madonna dell' Orto教会の大広間の玄関上に飾られていたということだが、高々と掲げられていたせいだろう、天使のポーズはほとんどマトリックスのようなありえない角 度から描かれている。身体をねじりながら宙に浮かんでいるその姿は、告知内容がなんであれ、相手をびびらせるには十分な異様さである。マリアが驚くのも無 理はない。

 絵がどのような大きさで、もともとどのように掲げられていたかは重要な問題だ。ベッリーニの「玉座の聖母子と六聖人」(1478以降?)の迫力は、その 471*292cmという巨大さもさることながら、それが祭壇画として高く掲げられていたことにも由来するだろう。おそらく、鑑賞者の目線は、下でチター を弾きながら上目づかいをしている天使たちの足下あたりの高さにある。そして透視図法の消失点はそのあたりに設定されている。それを考えるなら、両脇にい る聖人たちの、下から仰ぎ見るような姿にも納得がいく(17インチくらいのモニタいっぱいに引き延ばしてモニタのエッジあたりに目をおくと、この気分が少し味わえる)

 ベッリーニの迫力を再認識したので、午後にフラーリ教会にふらーりと行ってみるのであった。ここにベッリーニの「フラーリ三翼祭壇画」(1488)が、オリジナルのフレームとともに残っている。
  実は二年前にも見ているはずなのだが、そのときはまるでピンと来なかったことが今回はびんびんと響く。「王座の聖母子と六聖人」もそうだが、この絵のみ どころは、じつはフレームと絵の境目にある。絵には疑似フレームとドームのへこみが描かれていて、それがフレームと連続するようになっている。「王座の聖 母子と六聖人」では、そのことは必ずしも明瞭ではないが、フラーリ三翼祭壇画で は、このつなぎめがじつにうまくできていることがわかる。天使の羽先は、絵に描かれたフレームを透かすように描かれている。照明はほどよく暗く、絵はフ レームによってつけられた段差を引き受けてさらに奥まり、背景は退き、中央の聖母と子はその背景からくっきり分かたれて浮かび上がる。

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