土曜市
旅路にて秋を迎えり パーカー買う
じがばちは市のかけらを丸めをり
絵筆持つラファエロ前に捨てし串
洋梨をたわわに実らすパノラミコ
坂道を転がしていく市帰り
流行っている店には電光の番号表示板があり、主人は勘定が済むたびにボタンを高く掲げて数字をひとつ進める。店の前には銀行にあるような発券機が
置いてあり、うすい紙の番号券をちぎって待つ。串焼きがうまそうだったので、ひとつちぎると、朝の10時で早くも番号は213番。売れ行きは上々というと
ころなのだろう。あぶったばかりのエビとイカの串。カリカリしたパン粉がまぶしてあり、この歯触りがなんともうまい。
別の店で焼き豚を試食させてもらうとこれがとろけるようにうまい。昼飯用にサンドイッチにしてもらう。
11:30、ウルビノをバスで発つ。
路線バス
重き頭 旅の荷物に抱えゆく
モーツァルトのマーチが呼び出すイタリア語
墓過ぎて行く手に海の気配なし
眠るには重たき頭 丘眺む
空高く 掘り返されし土の色
ロータリーは海と山とに矢をかざす
車族の坂なだらかに大店舗
それぞれの飴を差し出す停車場(フェルマータ)
俳句はその短さゆえに、季語の力を借りて時空間に視点とパースペクティブを与え、世界をリアライズする。短歌はその長さによって時空間を自ら特定する。
ペーザロで列車に乗り換え。そこからラヴェンナへ。ラヴェンナにはビザンンチン期のモザイク画が多く残っており、今回はそれを見にきたのである、と書きたいところだが、これまた青山さんの受け売りで、ぼくは予定があいていたのでついてきただけ。
宿のHotel Ravennaは駅のすぐそばでフロントには猫がいた。
ラヴェンナの町からバスで15分くらい行ったところにクラッセというところがあり、そこにラヴェンナでもっとも大きな教会がある。町中からはずれたこんなところに忽然と教会があるのは不思議だが、その経緯は買った本によれば次のごとし。
紀元後すぐの1AD、アウグストゥス帝がクラッセに港を作り、402ADにラヴェンナはミラノにかわって西ローマ帝国の首都となった。しかし
476ADにゴート族の侵入により西帝国は終わる。493ADにはテオドリック帝の支配によりアーリアとキリスト教との宥和が試みられ、540にビザンチ
ン帝国ができるが、751年にロンゴバルドの支配が始まり、ラヴェンナの繁栄は終焉する。その後、クラッセは湿地化し、ラヴェンナじたいは1431年から
ヴェネチアの支配下に。19世紀から20世紀にかけてはほとんど忘れられたエリアとなった。
教会はすこぶる巨大なもので、キリストのエピソードを描いた回廊のモザイクは、あまりに高すぎて双眼鏡を使わないと細部が分からないほど。
長き首 十字のありかしめしをり
クエストの行く先々でクエスチョン
すっかり堪能してから食事タイム。青山さんと田尻さんがRetardを入念にチェックし、おすすめのトラットリアに行く。開店には早かったのでそばのバーで待つことしばし。やたらと声の低い男たちの談笑。
喉奥を鳴らす軽口 握手かな
開店後に行ってみると、はやくも客で賑わっている。4人で席につくと
店の男がやってきて、英語で「antipasta or
pasta?」とたずねるのでantipastaと答えると、選択の余地もなく前菜登場。シャンピニオン茸にスライスしたチーズがもうええっちゅうくらい
乗っている。えらくうまい。
パスタの段になるとまた男が「4 is too much. 3 different pasta, ok?」とたずねる。これまた有無を言わせない口調で、むろん、その3つの異なるパスタというのがどのようなものかはおまかせ。
そしてやってきたのは、アスパラのクリームあえ、ポルチニ茸、そしてトマトとグリンピースという三色パスタのてんこ盛り。しかもどれもうまい。
トラットリア
皿四つ持つほど軽き客の頼み
おでかけのマニキュア広げ席立つ娘
息子には語る夢ありトラットリア
曲線の髪と鼻持つ児の叫び
ポルチニはパスタの幅にぬめりをり