朝、旧市街を散歩。
戸口より頭出す犬 声の人
天を刺すかじきの頭 港町
磔刑のサーモンピンクの布なびく
尖塔を繰り返し舞うかもめかな
坂に居て人の気配をはかる猫
広場守(も)る聖母の下に休む犬
教会の鐘に応える駆動音
船守る砦の高さ 聖人像
鳩通うアーチの柱 サンローラン
海神がスナックを売るアレゴリー
手に重き四角四面のシャボンかな
バケットを握りしめる手 ノンの声
樹脂の椅子 三つ重ねなり 揺らす足
絵葉書屋へ。
エスプレッソ飲み干す白のワイシャツ 移民街
日盛りのシャッターに撒く水の音
ミュシャ真似しクリシェの壁画色浅し
スプレーの飛沫新し骨董街
なだらかな少年の笑み スケートボード
えら開きつり下がりたるブリの口
フリウール島に渡る。
石壁のはがれし砦にオフィスあり
マルセイユもまた厳窟のごとし 白き岸
外海にペスト患者の家ありき
裏の入り江で。
きんたまに染み渡りゆく地中海
かわくほど粘るてのひら石灰の島
波重く身体支える指痛し
切っ先をとがらせる岩 波静か
その帰り。
ちりちりとスレート鳴らすゴム草履
日焼けしてあせし入れ墨 白き島
影の側に傾きし船 旋回す
地中海たらたら流す左耳
空に開(あ)く地層の境 影深し
三つ編みの娘いたわる巻き毛かな
おそろいの眼鏡のつるは海の色
厳窟の岩より生えし砦かな
厳窟の岩に貼り付く濡れタイヤ
地中海吸いし草履の重たさや
近づきしメトロの風に乾く塩
アルルへ。坂と小路の小さな町。
夕暮れて 箸で飯食うシャボン売り