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20030830







 アルルの朝市。眼の市場。果物、香辛料、布地、玩具、どの店も色の洪水。とりわけ、黄色から土色へのグラデーションと、赤ピーマンから陶器の赤、壁の赤へと落ち着いていく赤の道。落ち着いた色合いの中に、人を狂わせるほどの調べ。狂った人を慰める調べ。

 蝉のいるテーブルクロス求めたり
 ピーマンの赤去りて漆喰の紅来たる

 ゴッホはアルルで収穫の時を迎え、カタストロフに陥った。アルルはさらなる収穫を得るべく、町をあげてゴッホ化している。ゴッホが耳を切ってから 入ったサナトリウムは「Van Gogh Espace」と名づけられ、写真フェスティバル会場のひとつとなっている。庭にはライラックが盛っている。Tim Barneyの「血統アレゴリー」(と勝手に名づけた)と、畠山直哉氏の渋谷川他作品群(これはすべて昨年見たものだった)。

 写真フェスティバルは町のあちこちで行なわれており、これを回っていけば、アルルの名所や古建築を一通り回ることになる。写真と建築に興味のある人間にとっては一石二鳥のオリエンテーリング。
 というわけで、まずはいちばん遠くのアリスキャンプへ。ここは、ローマ期の墓場で、石棺がずらずらと道の両脇に並んでいる。ポプラ並木は炎のように枝を立ち上げている。古寺にはめられたステンドグラスは色浅い。
 そのそばの鉄道の倉庫(操車場?)が今回のフェスティバルのメイン会場。今年のフェスティバルでは、中国のコンセプチャルな作家を特集している。オリエ ンタリズムといわれようがなんだろうが、使えるものは使うずぶとさ。中国=伝統とコピー文化の担い手、という西洋の期待に寄り添い裏切る。なるほど、世界 のアート市場で生き抜く知恵とはこういうことかと思った。
 そこに表われているのは、撮ってしまうこと、繰り返してしまうことではなく、撮り繰り返すことで大向こうをうならせようという野心であり、ほとんどの作品には興味が持てなかった。
 いっぽう、同じ会場でやっていた「useful picutres」にはいろいろ考えさせられた。いちばん奥に、行方不明者の情報を求める写真のスライド上映(そして実際にここで情報を求めている)。行 方不明者の写真には、家族写真のフォーマットが借りられている。そのことが、よけいに不明者の不在を訴える。あるいはそのようなフォーマットから姿を消す ことが、蒸発ということなのかもしれない。そういえば、「蒸発」ということばは誰が考えたのか、人を気化するものすごさ。

 写真から行方くらます尋ね人

 ネットにつないでみると、なんとwww.12kai.comが使えなくなっている。先方はメールを読んでいないのだろうか。とはいえ、旅の身では複雑な手続きができない。

 夜、レストランで15ユーロのMenu。

 方形の庭を選びし通り雨
 この雨はいずれの雲より落ちにける
 こうもりは方形に舞い雲流る
 過ぐ雨を積分するやタイル板
 それぞれのソルベの甘さ 夜の庭
 

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