このミュンヘンの宿には、まだ100年前の跡があちこちに残っている。たとえば、手動のダムウェーターが残っている。手動だからボタンなんかなくて、紐をするするとひっぱって井戸から桶を引き上げるようにダムウェーターを動かす。おもしろいのは、店の携帯電話に地下の誰かに宛てて電話がかかってくると、携帯をダムウェーターに入れて下に送ってしまうのだ。いまはいったい何世紀なんだろう。 朝から頭が重い。疲れがまた貯まって来ているのかもしれない。 UバーンとSバーンを乗り継いでLonely Planetに書いてあったフリーマーケットに行ってみるが、ひとつは空港の造成地になっていてマーケットのかけらもなく、もうひとつはどうも好みとすれ違う店ばかりだった。どうも街の間違った場所を押しているらしい。おまけに雨で、出店が品物をしまいだす。こういう日はじたばたしてもダメなので、おとなしく宿に戻る。幸い部屋には5つもベッドがあり、応接セットまである。それぞれのベッドの上には人の胴体の長さに折り畳まれた蒲団がきれいに置かれ、その端に枕が乗せてある。まるで死体のようだ。そのうちの一つをめくって寝転がって、これまで買った本をあれこれ読む。じきに雨が止み、空が明るくなる。 せっかくドイツだからと思ってつい、クネーデルだのソーセージだのばかり食ってたから消化器官が弱っているのかもしれない。スーパーに行って桃を2個買ってくる。これとクラッカーで夕食は終わり。 使っていないもうベッドの一つに、昨日買ったアルペンパノラマの図を広げる。ベランのパノラマを元にしたものだろう。長さは2mほどある。アルペンが寝転がる。ミュンヘンは左腰のあたりだ。 |