19990828インターネットカフェに行こうと思ってトラムを降りると、広場で骨董市が開かれている。 ざっと見てみると、まず目についたのが絵葉書屋。Asiaと銘打った段ボールが一箱ある。中身を見ると、あるわあるわ彩色絵葉書が。これは1時間くらいかかるな。搬入用のバンに座らせてもらって、もう一人の絵葉書好きのオヤジと並んで箱を漁る。多くは日本からフランス語圏もしくはオランダ語圏に送られたもので、東京、横浜、日光、箱根、京都、神戸といった場所のものが多い。富士山の稜線に沿うように、余白の空に書かれた葉書文。京都の都ホテルからの眺望に、「fujiyama」を足してある妙ないたずら描き。10枚に渡って書かれたラブレター。あるいは、画鋲のあと、アルバムのヒンジのあと。絵葉書が書かれた場所、保存されていた場所がゆかしく感じられる。 結局100枚ほど買う。そんなに束で買うのはぼくくらいのもの。だって日本と比べたらてんで安いんだもん。店の主人と固い握手。それにしても、ここデン・ハーグで浅草十二階の絵葉書を5枚もゲットするとは思っていなかった。 さらに半端ものがやけに多い店に、覗き眼鏡があった。衝立に2つの溝が切ってあって、その高さがぴったり絵葉書の縦横に合う。つまり絵葉書専用の覗き眼鏡なのだろう。値切って200G。これで、これまで買ったはがきを見る楽しみが倍増だ。 さらにさらにやはり半端な店で、ホームズ型ヴュワーと立体写真99枚のセット。たったの300G (約20000円)とはありがたや。カードの方は、ステレオ写真愛好家の間では大メジャーのアンダーウッド&アンダーウッド社のものだが、キリストの生涯の神話劇24枚がコンプリートで収められていたのは幸運。残りが世界の観光地ベストセレクションといった内容で、日本ものも3枚ほどあった。 あとは本屋をいくつか物色。そばで、今世紀初めごろに造られたオートマタが音楽を鳴らしている。折り畳まれたパンチ譜の小口に、インキで曲の名前が書いてある。分厚い紙の譜面は、折り目を広げながら規則正しくロールに吸い込まれ、曲名は上から消えていく。 結局カフェに行く頃には午後になった。しかしリュックが重いな。いったん宿に引き揚げて荷物を置いてから、夕方、セントラルに行こうとしてトラムの番号を間違える。しかたなく途中で降りて歩いていると、運河を渡ったところに、中古スロットマシンの並ぶウィンドウ。奥は暗いが、どうやら修理中の部品が見える。そして目を引いたのが35mmの映写機。これはもしかするともしかするかも。 それにしてもこれは店なのか修理工場なのか。鉄の格子戸から暗がりに呼びかけると、ごついオヤジが、バラしかけたスロットマシンのリールを床に置いて出てくる。 「えーと、ここはいつ開いてるんですか?」「開いてるか?今からでも開けんことはないよ。俺が開けたら開くのよ。で、何か用?」「8mmの映写機を探してるんですが」「あー、8mmは置いてないな。あ、いやまてまて。奥にあるかもしれん。」と、まるで官吏と囚人のような鉄格子越しの会話のあと、待つことしばし、奥から出てきたのは2台の8mm映写機。「それ、試すことできます?」「もちろん。まあ入れや」というわけで、ようやく格子戸の鍵をはずしてもらう。中をのぞくと、なるほどこれは容易に人を入れないわけだ。入る場所がない。「ちょっと待て、いまスペースをつくるから」と、オヤジが床に散らばっていた修理中のリールをスロットマシンの上に載せると、ちょうど二人が向かい合って立つくらいの広さができた。 「ヨーロッパ電圧ですね。」「そう。どこから来た?日本か。日本は何ボルトだ?たった100か。まあ変圧すればいいんだろう。ちょっとこれ持ってろ。コンセント入れるから」コンセントは柱にあるが、電源コードが短くて床に届かない。スロットマシンにはリールが載っている。というわけで、ぼくが捧げ持つ係でオヤジがスイッチを押す係。 モーターは動く。が、肝心のライトが点かない。「ああ、ランプが切れてるのかな。どこを外すんだ。見ろ。くっついているよ。反射鏡ごとはずすんだな。」そばの棚から即座にテスター登場。機能的な作業場ではある。なにしろ手の届くところになんでもある。「だめだな。絶縁してる。まあ換えはどこかに売ってるだろう。」というのだが、30年以上前の中古品の部品が果たして簡単に手に入るだろうか。もうひとつのプラスチック製のやつを試す。「これはガキのおもちゃってとこだな。でも一応オートマチックでフィルムが入る。カバーはプラスねじ一本はずせば開く。モーターは」モーターはひどい音がする。ケースが共鳴体になっているのだ。その大きい音が気に入ったので、値段を聞いてみると、40G。中古の8mm映写機なんか買ったことないから適正価格がわからないけど、ライトもつくし、これなら昨日買ったバッグスバニーもポーキーも見れる。まあ映写機が2500円で高いってことはないだろう。 「手元にキャッシュがないので換金してきたいんだけど、何時まで開いてるのかな」「何時に戻ってくる」「5時半までにはなんとか」「じゃ、5時半な。それまではここで作業をしてる。その後はわからない。」「明日は?」「明日は開いてるかもしれないし開いてないかもしれない。俺がここで作業をしてたら開けてやるけどな」「じゃ、なるべく早く戻ってきます」鉄格子越しに、5時半な、と念押しをするオヤジ。まったく、そうやって両手で格子をつかんでると囚人みたいだよ。待ってろ、いま助けてやるからな。 というわけで、駅前に戻り、換金屋でTCをギルダーに変えて戻るときっちり5時半だった。 「おーよく帰ったな、そら、ベイビーがお待ちかねだ。ところで、この映写機見ろよ。7 1/2mmだ。まあ、持っててもかけるフィルムがないんだけどな。だから、スロットマシンのリール盤をはめて見たのよ。ほら、いいだろう、フルーツムービー。グレープにチェリーに」というわけで、映写機とスロットと壁に貼ってあるマルクスブラザーズのポスターの話をして、それからフロントカバーのはずれたスロットマシンでひとしきり遊んだ後、ようやく財布から100G札を4枚取り出して数えようとすると「あ、まてまて、それだけでいけるじゃないか。」と一枚だけひょいと取って、お釣りをくれる。あー、もうスロットでボケてるのかな。400Gじゃなくて40Gだったよ。 ところで、写真を撮ってぼくのページに載せてもいいかな?「おお、いいよ、ラスベガスなスロットマシンとジョン・ウェインに狂ってるダッチ野郎、とでも書いといてくれ。あ、まてまて、作業服に着替えるから」そして、ドクロのマークのついた風呂敷、もとい、前掛けを腰に巻き、ポーズを取ってくれた。 帰ってから映写機に昨日かったリールをはめてみると、穴の大きさが合わない。アダプタを買わないといけないな。しかし、どこで手に入るんだろうか。とりあえず、厚紙を巻いて穴の隙間を埋めて、ちょっとだけ試写。がちゃがちゃとすごい音がして、ルーニーチューンのタイトルが部屋の壁に映る。 それから覗き眼鏡で絵葉書と立体写真を眺めてるうちに、何時間も経ってしまった。絵葉書はあと200枚は買ってもよかったな。 |