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19990829



 Alphen a/d Rijnへ。ここにはエレベーター博物館がある。
 駅に降りると閑散とした状態。地図で確認するとざっと3kmってとこか。歩いてもいいけどこの日盛りだしな。で、自転車を借りようとしたら日曜でレンタル用はすでになし。バスは一時間に一本。しかたないのでタクシーを奮発。ところが、表記の住所をどう探しても博物館の入口がない。結局、タクシーをまた飛ばして駅前へ。34Gの小旅行なり。

 デン・ハーグへ戻る。今日も骨董市を冷やかしてみたが、昨日ほどおもしろい店がなかった。ぼくの好きな幻燈だのステレオヴュワーだのというのは、彫像や絵のようにあからさまに骨董的な外観を持っているわけではない。扱っている業者もやや限られる。
 メスタグ美術館へ。パノラマ画を描いたメスタグ宅の別館で、彼自身が収集し配置した美術館。しかし、この建物にこれだけのコレクション、メスタグって相当な金持ちだったのだな。窓枠がまるで絵のフレームのよう、そこから抜ける青空。壁の絵の中は曇天。横長のパノラマ画の、きらめくような白い点。収集されている絵としてはバルビゾン派が多い。コロー、あとミレーにクールベも少々。あと、いかにも東インド会社的アジアの収集物があって、よくも悪くも19世紀のハーグの文化人の趣味が分かる。

 どうも最終日のせいか、こっちのエンドルフィンも切れかかっている。さて、パノラマの見納めでもするか。パノラマ・メスタグへ。
 中央をはさんでやや遠くからかいま見る。

 アボガドと青かびチーズと松の実とよく焼いたベーコン、好きなものばかりでできているサラダを食う。

 マドゥローラムへ。ここはいわゆるイッツ・ア・スモール・ワールドで、全体が1/25の縮尺で作られている。入り口に入ったとたん、ああ、縮尺がおかしいと思い、すぐにそれが当たり前のことに感じられてくる。30分くらいでひとまず回りきると、飽きてしまった。が、せっかく夕暮れが近いので、とりあえずビールを飲みながらぼうっとする。と、ただおもしろかった見世物がやがて悲しうなってくる。

 とにかく細かい。なんというか、単に人間とは違う小世界があるというより、そこに来ている人間の世界と地続きになっている感じがする。たとえば、目の前で子供と一緒に模型船を一心に眺めてる父親は、やがてその船に乗りそうな気がする。踏切の音がすると電車が来るのかと驚かされる。そう、電車がじつにいいのだ。すみずみまで、あの愛想のない黄色に1とか2とか書いてある電車がそのままのデザインで走っていて、何かに見入っているとテレパシーのように横を走り去っていく。その速さがまたいい。時速も1/25なんだろうか。高速道路もあって、追越し車線の車はちゃんと普通の車より速い。見物客の中に電動車椅子の人がいて、その速さがまるで模型の車と並走するようにぴったりなのだ。
 たぶん1/25というのは、見る側が、さまざまな尺度を付与しやすい大きさなのだろう。それは現実の縮小にも見えるし、現実と並走する別の世界にも見える。
 入り口の近くの土手の上に 二本の煙突が出ていて、これは単なる排気筒なんだろうけど、なんだか土手の向こうにどでかい汽船がひかえているように見える。日常の縮尺の方がなんだか異様な感じがするのだ。
 酩酊しつつマドゥローダムをゆっくり散歩。9時をまわってあちこちの小建物に灯りが入る。夜になっても、教会の前では婚礼が行われ、証券取引所の人々は仕事に追われ、ダム広場では若者がなごみ続けている。ここは、現実をあからさまにひっくり返すわけではない。いろんな尺度にシフトできやすい分、とっかかりが定まらない。空がたそがれていく。

 三方は森で囲まれていて、残る一方の建物もなんだかとぼけた階段状のデザインなので、この小世界を邪魔する建築物は見当たらない。見上げると、ここは暗いドームの底のようで、高い建物の部分だけ、空が持ち上がったように見える。

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Beach diary