19990819朝一番にトゥーンのパノラマを見に行く。駅前の案内所で場所を確かめて、湖畔の公園へ。森に半ば埋もれるように建っている煉瓦造りの建物がWocher Panorama、通称トゥーンのパノラマだ。 受付を通って中に入ると、まず回廊がない。いきなりパノラマの下に入ると、半ば絵が見えている。中央にはパズル版バベルの塔のようなグレーの円形の壇が4段あって、何段目まで上がって見てもよい。最上段には椅子が何脚かおいてある。そして、パノラマ特有の天井の覆いもない。だから絵の上端も下端も見えてしまう。じつに近代的というか、そっけない作りだ。 最上段に上がってぱっと見渡すと、まず、人々の姿が目につく。Scheveningenの芸術調に比べて、こちらは絵柄がなんとなく民芸調だ。 しかし、悪い感じはしない。早くもNW(北西)の方角にあるうろこのような煉瓦屋根、途中から跳ね上げるように屈曲する棟の曲線が、まなざしをぐいぐい引っ張る。 絵の中の明るい陽射し。教会の屋根にのぼっている人。NNWの煙突夫はこちらではない誰かに向かって手を振っている。その相手はこの絵の中にいるのだろうか。窓の女性が見ている相手は?観客のまなざしと危うくすれ違いながら、観客とは別の時間にいる誰かに向けられるまなざし。通りで話す人々、門から垣間見える人々。屋根の上で争う猫たち。絵の中の時計は9時15分を指している。 見ながら、自然と消失点に身体が向く。絵の手前(つまり下側)からの事物の配置がうまいのだ。ふと、階段下を通る別の客が、まるで絵の中に属しているような奇妙な錯覚を起こす。ごく親しげに、そのような錯誤がやってくる。 あるいは、開設当時はもう少し息苦しく、民芸風茶屋のような息苦しさをこのパノラマ画は放っていたかもしれない。天井の覆いが取り外されたことで、パノラマはかえって圧迫するような奥行き世界から解放され、自由に出入りできる奥行きを提供することになったのではないか。 パノラマに描かれていた場所を探索がてら、丘をたどる。 教会から見ると、なるほどジェスイット教会前の広場のあたりは絵に描かれているような町並みだ。角の楽器屋を覗くと、ここにも口琴がいっぱいあった。 古書店で物色していると、かわいい豆本の数々。50-60年代の本らしい。紙もフォントも愛らしい。え、これどれも2CHFなの?というわけで20冊ほど買う。別の古書店で昔のリトグラフ。やはりご当地トゥーンのものは高い。とうわけで、ルツェルンのやつを2枚ほど。トゥーンのはまた別の町で買えばいい。 宿の裏の城に登ってみると、意外に充実した展示。特に19世紀の生活を表した生き人形やら、ピープショー、ステレオヴュワーなどがさりげなく玩具の一部として紹介されているのもよかった。船に据え付ける自動ラッパオルガンが置いてあったので録音。 夕方、石畳を踏みならして、宿の前の広場に次々と軍楽隊が入ってくる。今宵はここで野外演奏会らしい。なるほど広場とはかくの如く占拠されるのだな。ちょうど部屋の窓から見えるのでしばし見物。教会の8時の鐘が鳴り終わると、女性が甲高い声で、ご丁寧にも3カ国語で紹介。そして始まったのは小学校の吹奏クラブレベルの演奏。いかん、悪酔いしそうだ。 逃げるように外に出て再びパノラマの町を探訪。おっとこのクリーンなスイスの地にもあやしげな葉っぱマークの店が。こんなのパノラマに描いてなかったぞ。店主はフランク・ザッパそっくりの風貌。「珍しいねえ、この店に入ってきた日本人は君で二人めだよ」ですと。日本からスイスくんだりまで来るんだから、麻よりアルプスの空気を吸いたいのよ。 一回りして帰ってきたが、まだ軍楽隊の演奏は続いている。次はブルース・ブラザーズのテーマか。ただしとてつもなく下手な。みんな若いな。軍楽隊への配属ってのはどうやって決めるのかな。スイスでは20才から一定期間の兵役義務があるらしいが、そのときにはいはいって手を上げるのかしらん。昼間Coopで調達しておいたワインとソーセージとパンで遅い夕食。 |