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19990818





散歩。しかし、どこのウィンドウもやたらオブジェが好きで重なりが好きだな。スイスアーミーナイフのオブジェがうねうね動くのも、Swatchが盤面の奥にいくつもの面を作ろうとするのも、みんなアルプスの奥行き感のなせる技ではあるまいか。
 Luzern歴史博物館をざっと見た後、通りがかりにステンドグラスがきれいだったので、Franciscan教会へ。マリア堂の前の天使のしっくい細工の密度。そしてその多くが膝を曲げてこちらに突きだしている。3D映画でよく登場人物がストーリー上のなんの必然性もなく足を上げたり膝を前に出すが、良い意味でそれに近いものを感じた。天使は浮き出るために膝を曲げているのだ。小さいがいい教会だ。
 川沿いのJesuit教会にも行ってみる。祭壇や調度の数々はこちらのほうがはるかに立派だったし、オルガンも鳴っていたが、ひっきりなしに観光客が入ってきてまさにマーク・トエインの書くHofkircheの光景に近かった。
 午後、交通博物館へ。ここはCosmorama, Swiss-O-Rama, Natueramaなどなどhoramaに取りつかれたラマラマな場所だ。
 パヴィリオンは乗り物館とコミュニケーション館に別れている。コミュニケーション館はいわゆるインタラクティブなメディア遊びの場所で、動くと楽器が鳴ったりとかヴィデオ画面が変わったり。こういうタイプの見せ物って、まるでパソコンのマニュアルみたいに寿命が短いな。
 スイスラマは、1960年代にディズニーと提携したスイスの映像作家が万博用に作ったもの。360度を撮影できるカメラと映写装置を使った、いわゆるサイクロラマ。時間は約20分。内容はアルプスでお祭りでスイス万歳なんだけど、これがなかなかぐっとくる。移動撮影と固定撮影の混ざり加減がいいのだ。いろんな位置に立ってみたけど、前を見てよし後ろを見てよし。
 ナチュラマは、ジオラマとスライドショーを中心にした20分ほどのスイスの歴史。最初にテレビモニタがゆらゆら動いている部屋に入ってイヤな予感がしたが、これはひどい。スイス小細工の悪しき見本。いっしょにみてた女の子が、うんざりした顔で頭に指鉄砲を当てていた。同感。
 Swiss Controlは3画面による管制塔物語。寝てしまった。

 けっきょくこの博物館でいちばんおもしろかったのは、スイスツーリストの機械仕掛け。玉転がしであちこち動かすいわば「ことの次第」で、それだけなら、別に珍しくはないのだが、各部品ともいかにも手作りでがたがた、それも、ただ動きっぱなしではなく、ちゃんと玉が到着してから動き、玉が離れると止まる。この、がっちゃんとスイッチが入る感じがたまらん。
 しかもその展開がなんとも自己批評的。
 まず家を出発した玉はアルプスを眺めながらロープウェイで上昇、牛のカウベルを鳴らした後、スイス時計がぼんぼん鳴り、次はトラムで横移動、モーモー、かと思うとエレベーターで運ばれてお次はバスですか。アルペンホルンがお迎えする中、最後は金庫に入るや、中がちゃがちゃと玉が切り刻まれる音がして、カウンタがくるくる、チンと計算がすむと毎度あり、てなぐあいにお金がじゃらじゃら。いやあ、何回もみちゃったよ。観光で銭を稼いで銀行にちゃっかり隠し入れるスイス世界がこのひと巡りに体現されている。

 Luzernを出てBern経由でThunへ。約2時間。雲が低い。新しい街に行くときはいつも憂鬱になる。駅に着くと雨、荷物は本でくそ重く、タクシーでホテルへ。部屋は4階、リフトなし。肩が抜けそうになりながらようやくたどりついて窓を開けると、灯りに濡れた石畳の広場。


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Beach diary