Underwood & Underwood 社の十二階立体写真



Underwood & Underwood "Watching a free show, on Theatre Street, - looking north to Asakusa"




 有名な大観音堂、すなわち慈悲の女神の寺にいたる道はいくつかあるがこれはその一つである。数々の劇場はむろん、寺とはなんら関係はないが、こうした歓楽場はアサクサの境内にいたる多くの通りに軒を連ねており、通りがかる中流階級の幾千人もの人々の興味をひきつけ、財布の紐をゆるめずにはおかない。とりわけ休日や祭日ともなると、参拝客はあたりにごった返し、その途中で、こうした安価の娯楽に立ち寄るのである。
 奥に見える塔は寺の地所に立っており、低層の市内にあって十二階の建物はよく目立つ。いわゆる非日本風の建築からも分かるとおり、これは最近になって建てられたもので、まだ二十年も経っていない。頂上からは市をくまなく見わたすことができ、低い建物が木々とともにおよそ100平方マイルに渡ってあちこちに散在しているのが見える。
 劇場前の絵看板は一種の広告で、いわば劇場のポスターのようなものである。この界隈の劇場はヨーロッパやアメリカの劇場と同じく多岐に渡っており、日本古来のドラマを卓越した俳優が演じ、文化的に洗練された観客がそれを享受するといった劇場もあれば、コメディや軽い笑劇に常連客が大笑いするといった劇場もあり、特別な音楽や舞踊を演ずる劇場もある。古典的なドラマの上演は一日に渡り、通常9時間から10時間かけて行われ、客は弁当を持ち込んだり、ボックス席で軽食をとるのである。
 きらびやかな着物に不格好な木製の下駄をはいた女性たちは、冬の嵐の日をのぞけば、このように帽子をかぶらないのが通常である。

 From Notes of Travel, No. 8, copyright, 1904, by Underwood & Underwood

 

 手元のステレオカードから。上に訳出したのはカード裏の説明全文で、原文は英語。Underwood & Underwood社はステレオ写真の著名な会社で、日本以外にも世界各国の風景写真をセット販売している。19世紀中期から20世紀初頭にかけて、アメリカやヨーロッパでは、世界の風景を写したステレオカードのセットが盛んに販売された。この十二階の写真もそうしたセットの中の一枚である。当時は、簡易型のステレオヴュワーが多くの家庭にあって、いわばテレビの旅行番組を見るように、多くの人が立体写真による世界旅行を楽しんだ。裏の説明書きは、さしずめナレーションといったところ。ただし、テレビが一つの画面を共有できるのとは違って、こうした立体写真は、あくまで一人一人が覗き見るもので、誰かが覗いている間、他の人はそれを待たなくてはならなかった。
  写真は江川玉乗り大盛館前の風景で、右に十二階の一部が写っている。右端にちらりと写っている白い看板は、十二階の閣内にある「美術品」を記したもので、そのさらに右には入口があるはずだ。

 この十二階写真を含むセットの写真は、伴田 良輔 (編集)「立体写真集 NIPPON―明治の日本を旅する」(小学館)に多く収録されている。 (2001. 06.12)
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