浅草公園三友館広告(明治四一年八月二一日)



毎日午前十時より昼夜
○水道大消火栓使用米国ナイヤガラ大瀑布キネオラマ
○電気応用ナチユラルビユーチー○電気羽衣の舞○長唄女侠電光踊◎活動大写真
憶病者の決闘及賽の魔術
○悲劇貧の盗人○西洋風伽噺幽霊談
○入場料の外中銭一切なし○場内旋風器の●●あり

(●●は不明)



 三友館は浅草公園六区、今の浅草演芸ホールの場所にあった活動写真館。活動写真だけでなく、「キネオラマ」と言う巨大ジオラマ風の出し物で話題になった。上の広告が新聞に載った八月二一日、金田一京助と連れ立って十二階下に向かった啄木は、まずこのキネオラマを見る。日記には「児戯に以て然も猶快を覚ゆ」という感想が書き留められている。
 キネオラマもさることながら、「電気応用ナチユラルビユーチー」「電気羽衣の舞」「長唄女侠電光踊」というのもかなり気になる。長唄に女侠に電光。雷に打たれたシュールレアリストが口走りそうな組み合わせだ。啄木の通った浅草にはこんなとんでもない言語感覚が惹き文句として表れていた。これがボディ・ブロウのように効いて後の啄木の「へなぶり」に通じた、と言えば言い過ぎか。
 ぼくの頭の中では、下半身にコールタールを塗られた女侠が長唄をうなりながら疾風のようにスポットの下を過ぎていく光景がめくるめいている。「電光人間の巻」(鉄腕アトム)の記憶のせいだ。


 江戸川乱歩の「旅順海戦館」によれば、乱歩や足穂が見た旅順海戦館も、どうやらキネオラマ応用の出し物だったらしい。その効果は夜の光景で発揮された。「月が出る。今いうキネオラマとかの作用で、月の面を雲が通り過ぎる。船には舷灯がつく、灯台が光る。それが水に映って、キラキラと波うつ、大砲が発射されるたびに赤い一文字の火花が見える。船火事の見事さ。」(「旅順海戦館」)
そのものずばりかどうかはわからないが、手元に日露戦争キネオラマの絵葉書があるので参考までに載せておこう。 



[日露戦争キ子ヲラマ 第一開戦前 旅順港昼夜ノ変化及自然現象ヲ顕ハス]

 鈴村義二『新吉原史考枝葉 六区繁昌記』(東京都台東区役所、昭和三五年)にロンドン全景キネオラマの描写があって、キネオラマの内容を伺い知ることができる。これも写しておこう。

「・・・・・・さらば皆様、世界第一の都、イギリスは、ロンドンの全景」
という説明者の声に、音楽がかゝり、緞帳が上る。
舞台は、間口四米奥行三米程で、舞台一面にロンドンの模型が立体的につくられてあり、大町桂月ばりの、美文をならべた説明も楽しく
「夕立の光景」
「夕焼けの光景」
と説明につれて、電気、幻灯等の応用と、擬音を入れ、其の実景を彷彿させ、最後にロンドンの夜景となり、各建物に電燈がともりテームズ河に、影を写して、月がのぼり幕となる。これで一回の終り入場料は五銭であった。

 さらに、このキネオラマまがいのものとして「ライフトグラフ」なる珍妙なものがあったことを徳川夢声の「自伝夢声漫筆」(昭和二一年)は伝えているがそれについては別稿にて。

(2001. 06.02)

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