ギフォードはこの提案に同意を示して、無限に続くかと思われる階段を下りたが、西洋人の長い足にはほとんど無意味に思われた。休憩室をいくつか過ぎると、そこは日本のカンコーバ(バザール)が壊れてばらばらに流れ着いたようなところで、人形だの赤ん坊の帽子だのまがいものの宝石だのヘアピンだの得体のしれない外見をした珍品だのが置いてある。そして二人がたどりついた場所は美人の並ぶ長い螺旋のいちばん端で、そこから写真がびっしり三列で、何階かに渡ってぐるりと並んでいた。
「なんにせよ、これだけの写真をやりとげたのは大した名人だ」とギフォードは言った。彼がいちばんに気にとめるのはアーティストのことだった。「誰なのだろう?」
「ああ!オガワですよ。ここに名前があります。どの写真の下にもこの文字があるでしょう」
学生は「川小」の文字を指した。ギフォードは、それぞれの写真を説明する文字どもがのたうっている中で、その二文字だけが繰り返し現れることに気づいた。
「彼は写真にかけてはトーキョーのキングと言えるでしょう」学生は付け加えた。「残りの文章は女の説明です。たとえばここは」(ここで彼は横木に寄りかかって写真をじっと見つめた、というのもほとんどの日本の学生同様、彼は象形文字の見過ぎで近眼なのだった。)「たとえば、これはシンバシマスダヤのコツマ、シンバシシンナカムラヤのトクマツ、ヨシチョウヤナギダヤのワカザクラ、ヨシワラオワリヤのカネコ、まだまだあります。ところでどう思われます? お好きな女性は? 外人の方の好みはわたしたちとは違うんじゃないかと思うのですが。」
ギフォードは柵に沿って進みながら一枚一枚を子細に検討してから、戻ってきてオワリヤのカネコに投票した。「は!は!」案内の学生は言った。「それは妙だ!ともあれ下の階を見てみましょう。」
二人はまたまた赤ん坊向けに作られたかと思うような階段を首ががくがくさせながら下りると、次の美人の一群を検分した。
「ところで」とトキエダさん -ギフォードが尋ねると学生はそう名乗った- は続けた。「最後の階はいいですよ。名の知れた新しい芸者なのですが、男どもの噂の的なのです。売り出したばかりなのですが、とてもメズラシイモノです、なにせ英語を知っているのですから。」
「本当か!」ギフォードは、目が覚めたように興味を示した。「ならば見に行こう」
「あれが有名なオソヨで、彼女はこれら芸者の監督なのです」とトキエダさんは続けて、年齢不詳の年かさの女の写真を指さした。彼女はこのヴァルハラの一角を占めていたが、それはあたかも、オーストラリアのクリケットチームにおいて、試合に出ないマネージャーが、バットを振り回すプレイヤーに混じって、永遠の記念写真に収まるが如くだった。
「そしてこれが」と彼は続けた「私の意見を言わせていただくならいちばんのコマチですね。あなたのご意見はいかがですか?あ!」彼は叫ぶと、喜びながら手揉みした、というのも指し示された写真にギフォードが猛然と駆け寄ったからだ。「この顔には驚かれると思っていました。やっぱり!」
まさしく驚いた。その顔こそ、ギフォードが何ヶ月も夢に見、日本に戻る原因となった顔、何日も渇望しながらむなしく過ごしてきた顔だったのだから。
それは他ならぬ、アヤメだった。