ワルシャワからクラクフへ。乗り込みのときは慎重にまわりを見回す。乗り込んできた中に手ぶらの男が二人。あとで列車が発車するときに外を見たら、案の定ホームにいた。剣呑なり。
コンパートメントは相方と独占、窓も広く快適そのもの。窓を開けて外を覗こうとすると、ひゅん、ひゅんと死神が大鎌を振るような音がして電信柱がものすごい近さで通り過ぎる。ワルシャワを出てしばらくすると、林と農耕地がずっと続く。ゲットーから集められたユダヤ人がアウシュヴィッツに送られたルートだ。
「ロリータ」は、ビアズリーの学校を止めてまた旅に出た。
再び、行き届いたモーテルどもに迎えられる日々。そこにはこんな注意書きがある。
「みなさまどうかごゆっくりおくつろぎ下さいませ。ご到着に際してすべての備品は丹念に点検しております。こちらでは免許証番号を控えさせていただいております。お湯は節約してお使い下さい。周りのご迷惑になるお客さまには予告なく立ち退いていただくことがあります。便器にはいかなるごみもお捨てにならないで下さい。支配人。追伸:私どもは、当モーテルのお客様こそ世界で最高であると考えております。」
人を恫喝するかのようなこの場所で、10ドル払ってはツインをとった。カーテンのないドアの外にはハエどもが列をなしていてまんまと団体で入り込んでくるかと思えば、灰皿には前の客の残した灰がこびりついており、枕には女の髪の毛、隣の部屋からはタンスにコートをかける音、そのハンガーはばかげたことにワイヤーのバネでハンガー棒とくっついた盗難防止仕様で、何より人をバカにしているのは、ツインベッドがうり二つなら、その上にかかった絵までうり二つなのだ。(p210)
午後、クラクフに着く。Saski Hotelのエレベーター(Otis製)は格子状の二重扉を自分で開閉する古風なもので、なかなか風情がある。フロントでたずねると、1887年製ではないかという。最初の電気エレベーターは1889年なので、それはちょっと早すぎるような気もするが、水力か油圧式なら考えられないこともない。このホテルの建物じたいは16世紀からのもので、200年前からホテルとして営業しているという。
古絵葉書をどこかで売っていないか聞くと、ちょうどホテルの売店の男性が絵葉書集めが趣味だという。あれこれ話して、明日の蚤の市の場所と、おおよその絵葉書の値段を聞く。20世紀初頭くらいの色つきのやつで10ズォチ、高いやつで40か50というところ、だとか。
さっそく広場に出てウインナ食ってビール飲んで、酔い覚ましに土産物屋を冷やかし、そばにある聖マリア教会へ。天井の紺碧の空。祭壇の木彫。これはこれまで見た教会の中でベスト3に入るかも。ちょうど結婚式の始まるところでしばしオルガンを聞いてから外に出る。
「We invite you to the tower」と書いてある別の入口から入ると、もうええっちゅうくらい長い階段で、ようやく塔に登ると絶景かな。てっぺんには小部屋があり、寝袋や冷蔵庫や電子レンジまで用意されている。壁には古びた楽譜。どうやら毎時ここでもの悲しいメロディを奏でるトランペット奏者のためのものらしい。
クラクフの街には、この塔から奏されるトランペットが響き渡る。
方々を散歩してから近くのBarに入ってみる。作り置きのものを暖めて出すシステム。セルフサービス。スープとピエロギを二人で分けて4ズォチ。つまり一人約60円。激安。通ってしまいそう。
広場でビールを飲んでなごみ、ホテルに戻る。