Texture Time: 29 August 2001
Torino -> Barcelona




クシェットの三人はやけに無愛想だった 01.8.29 8:21 AM トリノから乗った自分をまるで闖入者のような目で見て、 01.8.29 8:22 AM それまで置いていたマクラや蒲団こそがその空席に坐るべき権利を持っていたのだという風に、 01.8.29 8:23 AM しぶしぶそれを脇に退けて空席をこしらえると、 01.8.29 8:24 AM あとは押し黙ったままだ 01.8.29 8:24 AM そのくせクシェットの寝床がセットされると 01.8.29 8:25 AM 男女のカップルは真っ先に「We are the bottoms」と主張し、 01.8.29 8:25 AM 残った一人の男と自分とは、まあいいやという風に上をとる 01.8.29 8:26 AM 向かいの一人の男はふてくされたように 01.8.29 8:27 AM 上にあがるなりさっさと毛布をかぶってしまった 01.8.29 8:27 AM 朝、カーテンからわずかな光がさしたのに目が覚めて 01.8.29 8:28 AM ベッドを降りる物音に寝返りを打つカップルの横を過ぎ、 01.8.29 8:28 AM 外に出て、それからずっと景色を眺めている。 01.8.29 8:28 AM 列車は国境を抜けてフィグレスについたところだった 01.8.29 8:29 AM なだらかな丘陵が途切れると 01.8.29 8:30 AM 鈍く光るものが遠くに見えて、それが海らしい 01.8.29 8:30 AM それからずっと海を探している。 01.8.29 8:30 AM マサネット・マサネス 01.8.29 8:31 AM くりかえされ、ずらされる音 01.8.29 8:32 AM ずらされながら唱えられる駅名 01.8.29 8:32 AM Salida/Sortida 01.8.29 8:33 AM 二つの音で呼ばれる出口 01.8.29 8:34 AM コーヒーのフィルタの残りかすを捨てるかつかつという高く固い音 01.8.29 8:35 AM 新しい豆からエキスを絞り出す吸引の音 01.8.29 8:37 AM その音をきくたび頭の中の記憶がいくつか奪われ 01.8.29 8:37 AM しかしそのことである別の考えが可能になるように感じる 01.8.29 8:38 AM 白く濁った壁に幻燈のような木々の陰が映る。 01.8.29 8:38 AM すぐそばにある木立 01.8.29 8:38 AM そこから分かたれて平面の陰影になる思考 01.8.29 8:38 AM 考えは、そのような二つの世界の距離によって成り立っている 01.8.29 8:39 AM 一つの列車の動きが生む 01.8.29 8:39 AM 二つの動き 01.8.29 8:39 AM 動きのずれ 01.8.29 8:39 AM そこから石垣のつぎめのような、考えの線をたぐっていく 01.8.29 8:40 AM たとえ窓がいったいに白く濁っているときでさえ 01.8.29 8:40 AM カフェから人が次々といなくなる 01.8.29 8:41 AM バルセロナが近い 01.8.29 8:42 AM

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