Texture Time: 08 August 2000
Rome -> Arth-Goldau
パスポートを持っていかれたので
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もう安心してねむることができる
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ここは電車の中なのだから
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ここは寝台の3Fで
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いやになるほどローマの空気がこもって
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汗が吹き出す
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さっきワインを山ほど飲んだから
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体が汗をかきたがってしょうがない
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なのにここはPiazza(広場)ではなく
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低い天井に被われていて
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ぼくはほとんどあおむけに寝転ぶように
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マシンを打たなければならない
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首筋にねっとりと貼りついた枕を感じながら
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その白さを感じながら
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そこからフォロ・ローマノ
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の柱の色を感じながら
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目の前には荷物
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同じコンパートメントでこれから一夜をともにする乗客たちの
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荷物から酸えた匂いがする
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そしてぼくの
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この汗が発酵するころに
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チューリッヒに着くだろう
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さっき食べたパスタのモツァレラ・チーズ
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が口蓋に貼りついて
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舌ではがそうとするとチーズなのか自分の皮膜なのかわからなくなり
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それでミケランジェロを思い出した
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午前に見たミケランジェロは
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巨大な壁
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渦をまいているのは壁の向こうで、
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それはけしてこちらの世界とは混じることがない
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見る者は対峙せざるをえない
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よそ者として。
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こちらを拒絶する巨大な悪意
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その悪意がユリウス教皇への悪意と結びつこうとする
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礼拝堂は新しい客の声を響かせ
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それからぱんぱんと拍手が打たれ、強い「シー
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」という音によって響きは弱められる。
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この絵を静寂とともに見ることなどできない
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もし観光客がいなければ
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かしましい渦がこの場を覆うだろう
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息苦しい汗や吐息がこの場を覆うだろう
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この狭いコンパートメントと同じくらいの息苦しさで
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肉体どもがひしめきあうだろう
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いまは寝台を背にしている
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さっきまで背負っていたリュックのせいで
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背中が汗ばみ続けている
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