Texture Time: 08 August 2000
Rome -> Arth-Goldau




パスポートを持っていかれたので 00.8.8 21:43 もう安心してねむることができる 00.8.8 21:44 ここは電車の中なのだから 00.8.8 21:44 ここは寝台の3Fで 00.8.8 21:44 いやになるほどローマの空気がこもって 00.8.8 21:44 汗が吹き出す 00.8.8 21:45 さっきワインを山ほど飲んだから 00.8.8 21:45 体が汗をかきたがってしょうがない 00.8.8 21:45 なのにここはPiazza(広場)ではなく 00.8.8 21:45 低い天井に被われていて 00.8.8 21:45 ぼくはほとんどあおむけに寝転ぶように 00.8.8 21:46 マシンを打たなければならない 00.8.8 21:46 首筋にねっとりと貼りついた枕を感じながら 00.8.8 21:46 その白さを感じながら 00.8.8 21:46 そこからフォロ・ローマノ 00.8.8 21:46 の柱の色を感じながら 00.8.8 21:47 目の前には荷物 00.8.8 21:47 同じコンパートメントでこれから一夜をともにする乗客たちの 00.8.8 21:47 荷物から酸えた匂いがする 00.8.8 21:47 そしてぼくの 00.8.8 21:47 この汗が発酵するころに 00.8.8 21:48 チューリッヒに着くだろう 00.8.8 21:48 さっき食べたパスタのモツァレラ・チーズ 00.8.8 21:48 が口蓋に貼りついて 00.8.8 21:48 舌ではがそうとするとチーズなのか自分の皮膜なのかわからなくなり 00.8.8 21:49 それでミケランジェロを思い出した 00.8.8 21:49 午前に見たミケランジェロは 00.8.8 21:49 巨大な壁 00.8.8 21:49 渦をまいているのは壁の向こうで、 00.8.8 21:50 それはけしてこちらの世界とは混じることがない 00.8.8 21:50 見る者は対峙せざるをえない 00.8.8 21:50 よそ者として。 00.8.8 21:50 こちらを拒絶する巨大な悪意 00.8.8 21:50 その悪意がユリウス教皇への悪意と結びつこうとする 00.8.8 21:50 礼拝堂は新しい客の声を響かせ 00.8.8 21:51 それからぱんぱんと拍手が打たれ、強い「シー 00.8.8 21:51 」という音によって響きは弱められる。 00.8.8 21:51 この絵を静寂とともに見ることなどできない 00.8.8 21:52 もし観光客がいなければ 00.8.8 21:52 かしましい渦がこの場を覆うだろう 00.8.8 21:52 息苦しい汗や吐息がこの場を覆うだろう 00.8.8 21:52 この狭いコンパートメントと同じくらいの息苦しさで 00.8.8 21:52 肉体どもがひしめきあうだろう 00.8.8 21:53 いまは寝台を背にしている 00.8.8 21:53 さっきまで背負っていたリュックのせいで 00.8.8 21:53 背中が汗ばみ続けている 00.8.8 21:53

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