Texture Time: 05 March 2000
米原 -> 富山
雪深い、と書きそうになるのをやめる
00.3.5 9:19
もはや雪は降ってはいない
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屋根に積もった雪の断面はかたくこわれて
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氷のかたまりとなりかけている午前
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見知らぬ土地、誰の所有ともつかない山間の地に地鎮祭のあとがある。
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かすかな霧が木々の輪郭をなぞるように漂っている。
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それを抜けると突如家並みが続きはじめる
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煙っているのは霧ではなくたき火
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遠い煙突
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まもなく敦賀でございます、というアナウンスがある。
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隣の香水のきつい女性が降りて
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少しほっとしている
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いまはかすかになった残り香をたどると
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先程の屋根の雪のことが思い出される
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それは敦賀にとっての山のように
00.3.5 9:30
近くて、それでいてはっきりと別のできごと
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崖崩れを防ぐために固めたコンクリートが
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しわくちゃになったワッフルのようにきつくうねっている
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削り取られた山、敦賀の壁
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トンネルに入るので
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隣の席に腰を移す
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そこにあったはずの人の形をした香水の匂いはもうほとんどかぎとることができない
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北陸本線がこんなにトンネルだらけとは知らなかった
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トンネルで始まったこの席でのできごとは
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このトンネルが続く限り終わらない
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かぎとることのできない残り香も
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このトンネルをぬけない限りゼロにはならない
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この暗さが、残り香を探すことに似ているから
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視覚を奪われて空間をなぞることと似ているから
00.3.5 9:35
米原から敦賀までの短い距離を特急で移動する理由のあった彼女
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乗りこむなりせわしなく携帯のダイヤルを動かしていた彼女
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トンネルをぬけると山間の霧はゆっくりと流れている
00.3.5 9:40
長い暗い移動の底流に、こんなゆっくりとした流れが持続していたのだと
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思わせるようなゆるやかさで流れる霧
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速度をゆるめながら小刻みにふるえる車体
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そしてトンネル
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壁の継ぎ目が教える速さ
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解けながら薄氷へとつながろうとする田んぼの雪
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そこに日が差している
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田んぼのふたがあいたように
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氷のとけだしたあたりから湯気のような蒸気がたち
00.3.5 9:46
霧とまざる
00.3.5 9:46
青空がかすんでいる
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変電所とラブホテル
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新興住宅の始まり
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○○邱新築工事、と書かれた看板
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○○、のところは空欄になっている
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武生
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化学工場・家庭菜園・手打ちそば道具・ゲートボール一式
00.3.5 9:53
日野川添いに自転車用に舗装された道路
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広々と舗装された国道にも霧は漂う
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日曜の人気のなさ
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町の霧は薄く、田が広がりはじめると霧は濃くなる
00.3.5 9:56
田は霧を産み出す
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工場をおおう
00.3.5 9:56
造成地をおおい
00.3.5 9:57
フジコン駐車場をおおい
00.3.5 9:57
界面活性剤工場をおおう
00.3.5 9:58
LPガス火気厳禁をおおう
00.3.5 9:58
ここいらの田の水はもうゆるんでいるから
00.3.5 9:58
ひたひたの冷たい水が刈り取り後のわだちを埋めているから
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それがカラスに格好の浅瀬となっているから
00.3.5 10:00
北陸自動車学校のまわりにも
00.3.5 10:01
霧はただよう
00.3.5 10:01
そして町が近づき
00.3.5 10:02
霧がはらわれてくる
00.3.5 10:02
霧がはらわれてくるのをみて町だときづく
00.3.5 10:02
列車は速度をゆるめる
00.3.5 10:02
陽射しがプレハブ住宅郡の壁に照りかえり
00.3.5 10:03
浮くなる
00.3.5 10:03
福井
00.3.5 10:03
霧のため少々遅れて運転しております、というアナウンス
00.3.5 10:03
給水塔のコンクリの汚れがはっきりとわかる陽射し
00.3.5 10:04
福井セントラルホテルの壁の汚れがはっきりとわかる陽射し
00.3.5 10:05
プラっトホームの影と日向は、町のもの
00.3.5 10:05
この車内の右の窓から投げられる陽も町のもの
00.3.5 10:08
そしてくっきりとした陽射しが続き
00.3.5 10:08
霧の気配を探している
00.3.5 10:09
遠い山並みをかすませるほどの霧はどこへいったのか
00.3.5 10:09
河川敷の裸木をかすませるほどの霧はどこへいったのか
00.3.5 10:10
ハニー新鮮館とそのアドバルーンを隠す霧は
00.3.5 10:11
蒸散しない駐車場の水たまり
00.3.5 10:11
田畑は雪解けの水に飢えている
00.3.5 10:12
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