Texture Time: 02 April 1999
京都 -> 城崎



小学校のグラウンドが盆地のひながたのように小高い丘にすえられている夜久野 99.4.2 14:55 薄い色の竹がしなだれて 99.4.2 14:55 崖を覆うコンクリートの編み目がたわんで 99.4.2 14:55 その下を次々とトラックが通る 99.4.2 14:56 そのトラックたちとこの車窓を 99.4.2 14:56 隔てる田 99.4.2 14:56 田のそばに川 99.4.2 14:56 川は線路から離れては近づき 99.4.2 14:56 窓際のウーロン茶はいつもそこにあり 99.4.2 14:57 焼畑のように煙がたちのぼっている山地 99.4.2 14:58 ここは喫煙車で、人のいる場所からは煙がゆっくりと立ち上がり 99.4.2 14:58 換気口に吸われていく 99.4.2 14:58 国道を横切る。国道には黄色に黒の矢印でカーブが示されている 99.4.2 14:59 山間の煙は自在に上る。 99.4.2 14:59 京都から1時間半、車内の声はこの車両の広さにふさわしい大きさに落ち着き 99.4.2 15:01 尻上がる語尾と単語のはしばしが天井にはねかえり、わずかにこもって聞こえる 99.4.2 15:02 ときどき向こうの席で腕がのびをしているのが見える 99.4.2 15:02 腕が輪の形になったり角のようにひろげられたりする。 99.4.2 15:03 ひとつの山の塊が確かなひとつの頭となって過ぎ 99.4.2 15:04 その麓に一軒ある家の 99.4.2 15:04 裏山というにふさわしい大きさで 99.4.2 15:05 椀をふせたように置かれている。 99.4.2 15:05 その向こうにさらに低い山がある 99.4.2 15:06 山陰本線は単線で 99.4.2 15:06 列車が行き違うために止まる柳瀬 99.4.2 15:06 桜はようやく開きはじめたところだ。 99.4.2 15:07 駅の桜をしげしげと見る 99.4.2 15:08 列車を待つあいだ 99.4.2 15:08 「この桜つぼみか?」という声 99.4.2 15:08 雨にぬれた蕾の色は、遠く萌え出す前の茶けた木々の色に似て 99.4.2 15:09 まるで散りあとに残った萼のようだ 99.4.2 15:10 山が近くまで来る 99.4.2 15:11 線路のすぐ脇から山が始まり 99.4.2 15:11 そこに墓がある 99.4.2 15:12 川を渡る 99.4.2 15:12 和田山の川辺にも墓所が広がっている 99.4.2 15:13 煉瓦の駅舎が残されている 99.4.2 15:13 コンクリートが変色している 99.4.2 15:14 グリーンカー 99.4.2 15:14 のマークをしげしげと見る 99.4.2 15:14 駅では、まるで移動を追ってきた目を休息させるように 99.4.2 15:15 目の前のささいな手がかりに視線が落ち着く 99.4.2 15:16 うごきだすと 99.4.2 15:16 こぶしの花も 99.4.2 15:16 朝日ソーラーのパネルも 99.4.2 15:17 国道沿いのパチンコ屋も 99.4.2 15:17 ただのしるしとなって過ぎる 99.4.2 15:17 低く下りて山を覆う雲が、 99.4.2 15:18 そうしたしるしの脈絡のなさの間を掃き 99.4.2 15:18 川沿いにつなげていく。 99.4.2 15:18 この列車の時間は続いていく 99.4.2 15:18 何度も、こともなく往復する添乗員のひっつめた髪のように 99.4.2 15:20 養父をやぶと読むように 99.4.2 15:20 この季節のために、人の移動する線に沿って植えられた桜が 99.4.2 15:21 それぞれのタイミングで花を開くように 99.4.2 15:22 稜線を覆い、空と山との境をあいまいにしていく雨雲のように 99.4.2 15:22 円山川は広がりを増し、この列車が渡る支流をとりこみながら 99.4.2 15:23 広がっていく 99.4.2 15:23 自動車教習場が、流れを閉じこめるように矢印をあちこちにたてている 99.4.2 15:24 八鹿 99.4.2 15:25 この山地では、川に沿って町ができ 99.4.2 15:25 川に沿って人が移動した 99.4.2 15:26 そのあとをいまも、この列車でたどることができる。 99.4.2 15:27 川沿いに立つ家、家の裏に山、山肌に墓所 99.4.2 15:28 河川敷に田 99.4.2 15:28 閉じられたトンネル 99.4.2 15:28 山が破れるように遠いコブシが咲いている。 99.4.2 15:30 緩く重い煙突の煙 99.4.2 15:31 川の流れ 99.4.2 15:31 を破っていく。破調のように 99.4.2 15:31 花は咲く春 99.4.2 15:31 江原 99.4.2 15:31 ここには海の気配はない 99.4.2 15:32 川幅は広がり続け 99.4.2 15:32 しかしどこまで広がるのかあてもなく 99.4.2 15:32 この駅の、曇天にともる蛍光灯のように 99.4.2 15:33 暗がりを暗がりとして捨て置かない。 99.4.2 15:33 雨は小降りになり足下から寒さがやってくる 99.4.2 15:34 田の広がりは川の広がりでもある 99.4.2 15:35 川の広がりを田の広がりとして吸い込みながら 99.4.2 15:35 土手らしい土手もなく川から続く田園 99.4.2 15:36 手打ちそばラーメン 99.4.2 15:36 という看板 99.4.2 15:36 田んぼの標識のような「よどこう」という杭 99.4.2 15:36 そして田をひきしめるように山が迫る 99.4.2 15:37 川を川として、輪郭を確かにしていく町 99.4.2 15:37 田に比して家々が増えていく 99.4.2 15:38 生産と消費が切り離されていく 99.4.2 15:39 スレート板に書かれた「TSUTAYA」の文字。 99.4.2 15:40 駐輪所に積まれた自転車の数、豊岡 99.4.2 15:41 かばんの統一ブランドとよおか 99.4.2 15:42 こかこーら 99.4.2 15:42 の自動販売機 99.4.2 15:42 特急きのさき 99.4.2 15:42 窓際においたウーロン茶と緑茶の缶ではさまれた空間に 99.4.2 15:43 コカコーラの自販機があり 99.4.2 15:43 ホームの屋根を支える鉄骨があり 99.4.2 15:43 かばんのまちとよおかの看板があり 99.4.2 15:44 それがこの旅に与えられた情景のように見える 99.4.2 15:44 豊岡では45分まで止まるから 99.4.2 15:44 かばんのまちとよおかの看板のしたに歩いてくる老人が痰を吐くことからも 99.4.2 15:45 「そのジュース、入っとるみたい」といいながら缶をごみ回収員から取り戻す人からも 99.4.2 15:46 この旅の声を聞く。 99.4.2 15:46 発車にそなえて車体を振るわせ出す列車の 99.4.2 15:47 振動がそれらの情景をなきものにしていく 99.4.2 15:47 声を振動で千切り 99.4.2 15:48 車窓を細かく振るわせ、この窓におさめられた光景をふるい落とす 99.4.2 15:48 行き先表示がはたはたと切り替わり、この列車の行き先はもう無効になる 99.4.2 15:50 北近畿タンゴ鉄道と別れ 99.4.2 15:51 長い停車をおえて城崎へと向かう。 99.4.2 15:51 豊岡の長い停車で、もうこの旅は終点についたから 99.4.2 15:51 ここから先は終点のさらに果て 99.4.2 15:52 川と山を、より機能的にしたような 99.4.2 15:52 温泉地だ 99.4.2 15:52 車も列車も一緒になって、 99.4.2 15:53 旅から旅に出る 99.4.2 15:53 そして列車は不思議とスピードを上げる 99.4.2 15:54 河川にはもはや田ではなく河川林が広がり 99.4.2 15:55 ここから見えない場所で山間は途切れて海に注ごうとしている。 99.4.2 15:55 「かに自慢」 99.4.2 15:56

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