Texture Time: 03 January 1999
東京 -> 名古屋
ねむけのなかでさっきみた歌舞伎のことを考える
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新幹線はまもなくなごやにつく
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かんがえをけすていしゃ
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ねむけにくぎれをいれる金印わさび
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いったことのない場所へいくための乗り換え案内
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にこにこくれじと
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この文章を成立させるためのぎりぎりのわざとらしさと
わざとらしさをうけいれ越えるための
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そしらぬ顔をした思考とを
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区切る減速
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しかしそんなまわりくどさのこともいまは忘れる
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人がのりこんでくるから
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おちつかないざわめきが安い考えをふみしだくから
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リクライニングシートにコンビニの袋がむすびつけられているから
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他人の考えをさえぎるように新聞がひろげられているから
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このじんわりとした頭の重さは今朝からのことで、
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頭の重さから、今朝からのことを考える
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頭の重さを保っていることと
今朝からのできごとがいまに至るまで続いていることとが、
同じことであるかのように思われる。
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松王丸が我が子を身代わりに差しだし、
それが制度として納得される事への違和感もまた
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いまのこの重さと同じことのように思われる。
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夕暮れをはねかえして東から射す窓ガラスの光
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が考えを散らす
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通路をはさんでむこうのおとこの子が分数の宿題をといている
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解くのをやめて外を見る。
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いまは夕暮れどきだから、分数よりも外だ。
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母親はねているからなおさらだ
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そしてまた分数に向かう。
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帯分数に。
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727コスメティックの看板が過ぎるのも知らずに分数に向かう。
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飛騨高山の遠近法、その空気遠近法も見ずに、分数に向かう
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今日、浅草公会堂の引き幕があき、舞台の橋に描かれた山並みがみえたとき、
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山が押し絵のように遠近に見えた。
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分数の答えがでた。母親をおこしたが、とくに反応はない
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ので、子供はまた遠近法でなく分数に向かう。
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木曽川でなく分数
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日本交通のバスをおいこすのでなく分数
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そうするあいだにも山の輪郭はあいまいになっていく。
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歌舞伎の記憶もあいまいになっていく。
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岐阜羽島の甍の波の上に、
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松王丸の息の多いこえが流れていくだけだ
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浪花運送で運ばれて
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考えを絞ろうとする力を、窓の外をいく電車に重ねる
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考えの停滞を、岐阜羽島で7分停車する新幹線のせいにする
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起きない母親のせいにする
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頭の重さを、湾曲した天井の照明が
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車両のはしからはしに連なっているせいにする
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昼見た歌舞伎で眠ってしまった
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それもいちばんの見せ場、松王丸の首実検のところで、
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どこで寝たかもはっきり覚えている
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首実検でかっと目を見開いて、確かに道真の息子と辰の助が見得を切る
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三味の音が辰の助の声を待っている
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音がなくなる
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そのときだ。
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気が付いたときは首実検は終わっていた
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辰の助のかすれるように通声。
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なにもかもわかりながらけして自分の思い通りにはゆかない
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敗者の声
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解釈の声が止む
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そのとき眠った
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そして目が覚め
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頭が重い
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その重さをいまにいたるまでひきずっている
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次はいつ眠ろう
99.1.3 16:46
次はいつ黙ろう
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だれか世界をだまらせて
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ねむらせて
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ねむってはいけない
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の重さのせいで
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いっそ眠ってしまえ
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の頭のせいで
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目をつぶってしまえ
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どうせこの文字をみてはいないのだから
99.1.3 16:47
このパソコンがあることも忘れてしまえ
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子供をわすれ
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母親をわすれてしまえ
99.1.3 16:47
忘れてしまえ
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分数の運命を
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