Texture Time: 03 January 1999
東京 -> 名古屋



ねむけのなかでさっきみた歌舞伎のことを考える 99.1.3 16:26 新幹線はまもなくなごやにつく 99.1.3 16:26 かんがえをけすていしゃ 99.1.3 16:26 ねむけにくぎれをいれる金印わさび 99.1.3 16:27 いったことのない場所へいくための乗り換え案内 99.1.3 16:27 にこにこくれじと 99.1.3 16:27 この文章を成立させるためのぎりぎりのわざとらしさと わざとらしさをうけいれ越えるための 99.1.3 16:28 そしらぬ顔をした思考とを 99.1.3 16:28 区切る減速 99.1.3 16:28 しかしそんなまわりくどさのこともいまは忘れる 99.1.3 16:29 人がのりこんでくるから 99.1.3 16:29 おちつかないざわめきが安い考えをふみしだくから 99.1.3 16:29 リクライニングシートにコンビニの袋がむすびつけられているから 99.1.3 16:30 他人の考えをさえぎるように新聞がひろげられているから 99.1.3 16:30 このじんわりとした頭の重さは今朝からのことで、 99.1.3 16:31 頭の重さから、今朝からのことを考える 99.1.3 16:31 頭の重さを保っていることと 今朝からのできごとがいまに至るまで続いていることとが、 同じことであるかのように思われる。 99.1.3 16:32 松王丸が我が子を身代わりに差しだし、 それが制度として納得される事への違和感もまた 99.1.3 16:32 いまのこの重さと同じことのように思われる。 99.1.3 16:32 夕暮れをはねかえして東から射す窓ガラスの光 99.1.3 16:33 が考えを散らす 99.1.3 16:33 通路をはさんでむこうのおとこの子が分数の宿題をといている 99.1.3 16:34 解くのをやめて外を見る。 99.1.3 16:34 いまは夕暮れどきだから、分数よりも外だ。 99.1.3 16:34 母親はねているからなおさらだ 99.1.3 16:35 そしてまた分数に向かう。 99.1.3 16:35 帯分数に。 99.1.3 16:35 727コスメティックの看板が過ぎるのも知らずに分数に向かう。 99.1.3 16:36 飛騨高山の遠近法、その空気遠近法も見ずに、分数に向かう 99.1.3 16:36 今日、浅草公会堂の引き幕があき、舞台の橋に描かれた山並みがみえたとき、 99.1.3 16:37 山が押し絵のように遠近に見えた。 99.1.3 16:37 分数の答えがでた。母親をおこしたが、とくに反応はない 99.1.3 16:38 ので、子供はまた遠近法でなく分数に向かう。 99.1.3 16:38 木曽川でなく分数 99.1.3 16:38 日本交通のバスをおいこすのでなく分数 99.1.3 16:38 そうするあいだにも山の輪郭はあいまいになっていく。 99.1.3 16:39 歌舞伎の記憶もあいまいになっていく。 99.1.3 16:39 岐阜羽島の甍の波の上に、 99.1.3 16:39 松王丸の息の多いこえが流れていくだけだ 99.1.3 16:40 浪花運送で運ばれて 99.1.3 16:40 考えを絞ろうとする力を、窓の外をいく電車に重ねる 99.1.3 16:40 考えの停滞を、岐阜羽島で7分停車する新幹線のせいにする 99.1.3 16:41 起きない母親のせいにする 99.1.3 16:41 頭の重さを、湾曲した天井の照明が 99.1.3 16:42 車両のはしからはしに連なっているせいにする 99.1.3 16:42 昼見た歌舞伎で眠ってしまった 99.1.3 16:42 それもいちばんの見せ場、松王丸の首実検のところで、 99.1.3 16:43 どこで寝たかもはっきり覚えている 99.1.3 16:43 首実検でかっと目を見開いて、確かに道真の息子と辰の助が見得を切る 99.1.3 16:43 三味の音が辰の助の声を待っている 99.1.3 16:43 音がなくなる 99.1.3 16:44 そのときだ。 99.1.3 16:44 気が付いたときは首実検は終わっていた 99.1.3 16:44 辰の助のかすれるように通声。 99.1.3 16:44 なにもかもわかりながらけして自分の思い通りにはゆかない 99.1.3 16:45 敗者の声 99.1.3 16:45 解釈の声が止む 99.1.3 16:45 そのとき眠った 99.1.3 16:45 そして目が覚め 99.1.3 16:46 頭が重い 99.1.3 16:46 その重さをいまにいたるまでひきずっている 99.1.3 16:46 次はいつ眠ろう 99.1.3 16:46 次はいつ黙ろう 99.1.3 16:46 だれか世界をだまらせて 99.1.3 16:46 ねむらせて 99.1.3 16:46 ねむってはいけない 99.1.3 16:46 の重さのせいで 99.1.3 16:47 いっそ眠ってしまえ 99.1.3 16:47 の頭のせいで 99.1.3 16:47 目をつぶってしまえ 99.1.3 16:47 どうせこの文字をみてはいないのだから 99.1.3 16:47 このパソコンがあることも忘れてしまえ 99.1.3 16:47 子供をわすれ 99.1.3 16:47 母親をわすれてしまえ 99.1.3 16:47 忘れてしまえ 99.1.3 16:48 分数の運命を 99.1.3 16:48

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