日本語で読める絵はがきの本のほとんどのものは、残念ながら日本の絵はがき史に視点を限っている。拙著「絵はがきの時代」では、これに対して、絵はがきの世界史に重点をおいたが、その際に参考にした資料の中から、以下、めぼしいものをあげておこう。
各国の絵はがきの起源を知るための良本。origin"s"と複数になっているところがポイントで、いくつもの起源が織り込まれるように絵はがきへと流れこんでいく過程が記されている。特に、郵便制度の始まりから、ヴューカード、絵封筒、トレーディング・カードなどの、絵はがき前史の記述が興味深い。古い本だが、古本屋でもしばしば見かける。入門書として強くお勧め。
E. Richardsonの編集によるイギリスの絵はがきコレクター雑誌。絵はがき最盛期のイギリスの動向を知るための基本文献。F. StaffやMillerの本にも、盛んに記事が引用されている。通読するだけで絵はがき力がみるみる付くが、所蔵図書館が少ないのが難点(わたしは大英図書館で読みました)。
Staffの著書とともに、絵はがき史の基本文献のひとつ。特にイギリス絵はがき史の記述が充実している。
手元に置ける小さな一冊。絵はがき集めの指南書で絵はがき史もコンパクトで読みやすい。さりげなく書かれている記述は意外に深く、ここに書いてあることにいちいちうなずくことができるようになるには、ある程度経験が必要だと思う。
絵本作家、イラストレーターとしても有名なルイス・ウェインの、とくに絵はがきについて書かれたコンパクトな本。彼の絵はがきを集めるにはよい手引きとなるだろう。巻末の一ページに収められた、絵はがきマニアによる「ルイス・ウェインの墓探訪記」が泣かせる。
オーストリアからパリ、ロンドン、そしてアメリカへと渡り、アール・ヌーボー調の絵はがき作家を経て、ピンナップ・ガール図像の元祖となったキルヒナーの生涯と、その絵はがきの全貌が分かる一冊。カラー図版が多く、バージョン違いの情報も充実している。オークションでは、キルヒナーの各絵はがきはこの本に掲載された番号で示されることもある。高価なのが難点だが、キルヒナーに興味のある人ならば必携の一冊。
写真絵はがきの元祖はマルセイユのドミニク・ピアッツァである、という記述はさまざまな書物で見かける。が、肝心のその現物を論じた本はほとんどない。マルセイユの絵はがき商でコレクターでもあるオリヴィエ・ブーズ氏の手による本書には、ピアッツァの貴重な絵はがきが収められ、発行の経緯が記されている。
フランスの絵はがき史を、製作技術や絵はがき会社に注目しながら、現代史まで俯瞰したペーパーバック。フランスの絵はがきというと、日本ではもっぱらミュシャなどのアール・ヌーヴォー絵はがきのみが取り上げられるきらいがあるが、じっさいにはより広範で多様なメディアであることが分かる。
1900年から1999年までの絵はがきを集めた本、と言えば簡単なのだが、なんとこの本にとりあげられたすべての絵はがきは使用済みで、しかも各年のページにとりあげられた絵はがきは、すべてその年の消印を持っているのである。著者のトム・フィリップはこれら一枚一枚の絵はがきのメッセージを読み込み、誰が誰に、なんのために宛てた絵はがきかを解読していき、その年に起こったできごとに思いを馳せる。それが1900年から始まって100年分続く。かくも大量の絵はがきを丹念に読み込んだ書物をわたしは他に知らない。
1893年シカゴ博覧会以降から第一次世界大戦までのアメリカ絵はがきの歴史を丹念に追った書物。私製絵はがきが認められるまでの官製絵はがきの話が数多く含まれており、博覧会絵はがきを中心とするアメリカ絵はがきの初期の動向がよく分かる。
おとぎ話絵はがきは、ファンタジー絵はがきの中でも大きなジャンルを形成している。本書では、初期の英米の絵はがき作家のプロフィールとその絵はがきが丁寧に紹介されている。絵本史と絵はがき史をつなぐ意味でも興味深いアプローチである。それにしても、絵はがき本の著書は、夫婦であることが多い。
絵はがき先進国であったドイツ語圏の文献については、著者がドイツ語が不得手なせいもあって、あまり渉猟できていない。ご存じの方はご教示いただければ幸い。 ご連絡はmag01532@@nifty.comまで(アドレスから@をひとつ削ってください)。