夏が来た。長いヘルロードを越えてようやく喫茶にたどりついたかえるさんだったが、帰りが心配だった。この調子で照り続けると、かえるの命に関わる陽射しの強さだった。他のかえるもそうらしかった。どのかえるもぼうふら水を飲みながら目がゆらめいていた。
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店の中はあちこちゆらめいてただならぬ気配が立ちこめた。マスターは拭いていた皿を静かに置くと、ドアの鈴の音もさせずにさりげなく出ていった。そのさりげなささえ、かえるさんは見逃さなかった。誰もが見逃さなかった。店はさらにゆらめいた。
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マスターは戻ってくると、黒板にアオサギを描いた。アオサギは首をすくめていた。あちこちからほうっという息がもれた。かえるさんは背もたれにからだをあずけた。午後はけろっと湿るのだ。あちこちから注文を追加する声が起こった。
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誰もが雲が出るまで長居をした。かえるさんも、ぼうふら水を飲んでは琵琶湖を見て、雲の流れを確かめた。ようやくまとまった雲が見えたので、喫茶を出て、土手に上がると、遠い気象台の丸屋根の上にアオサギがいた。置物のようだった。かえるさんは土手を歩きながら置物をにらみ続けた。置物はアオサギになっていくように見える。でも、それはかえるさんが動いているせいかもしれなかった。
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かえるさんはヘルロードの角まで来てから、しばらく待ってみた。置物はぴたりと動かない。雲が動き続けていた。なおも待った。ひときわ黒い雲が来た。その雲はじりじりと湖岸に近づいてきた。かすかに湖面がけむり出した。そしていよいよ気象台のあたりに雲が来たとき、置物の頭がぴくりと羽にもぐった。やはり天気読みのアオサギだった。そして、かえるさんがもう行こうとしたとき、頭に最初の雨粒がばちりと当たった。