かえるさんレイクサイド (41)



あぜのあちこちでカラスノエンドウの実がふくらんでいた。かえる向けの夏が来た。暑すぎず寒すぎずけろっと乾いたこの季節、かわいた喉にぼうふら水が気持ちいいこの季節こそかえるのものだ。


そのふくらんだカラスノエンドウのさやを口にくわえる「さや祭り」こそは、夏の始まりをへとへと告げるかえるの祭りだ。かえるさんは実入りのいい重たいさやを選んで、さやしごきに精を出していた。さや祭りのさやを作るには、まず全身全霊をこめてスジを取らねばならない。じっさい、全身全霊が必要なほど、さやのスジはかえるにとって固く、手ごわい相手だ。


取れたすじの割れ目に乗っかって、体重をかけながらさやを開いていくと、みずかきが丸い実に当たる。冷たい実がかすかに柔らかければ、それは上等のさやだ。中には上等の実が入っている。上等の実はひと晩だけならとてもいい枕になる。枕はひとつあればじゅうぶんだけれど、さやには枕がいくつも入っている。


さやにかえるあしを入れて、風呂の中を歩くようにぐいぐい押すと、向こうから枕がこぼれる。さやの方向に向かって歩くとぽろぽろと枕が次々こぼれ出す。そうしてさやの端まで歩いたところで、最後に残ったのが今日の枕だ。もちろん、こぼれた枕の中にもよさそうなのがあるけれど、かえるさんはいつも最後の枕を取る。


実のなくなったさやを押し開いて、全身全霊をこめてしごく。じっさい全身全霊が必要なほど、さやは青くて張りがある。さやがこなれてへとへとしてくるまでしごく。玉のような汗がぽろぽろこぼれる。でも今日は枕がある。





第四十二話 | 目次





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