かえるさんレイクサイド (39)



梅雨も終わりに近づくと、かえるの肌は乾きがち。そんなかえるにけろっと湿ったぬるい水。ヘルなロードを歩いていると、かえるさんの頭には、ありもしない銭湯のキャッチコピーが浮かんできた。浮かんだけれど、投稿のあてはなかった。


あてはなかったが銭湯はあった。かえる天神のそばにあるのは前から知っていたが入ったことはなかった。いままさに近づきあるのがそうだった。ちゅうちょする理由はないが、のれんをくぐるには、天神へ行く角を逆に曲がらなければいけない。いつもはその角を曲がりきれずに天神へ行く。梅雨も終わりに近づくと、かえるの肌は乾きがち。頭の中で唱えると、かえるさんの体はぐっと傾いて、あざやかにカーブを切った。


そんなかえるにけろっと湿ったぬるい水。けろっ、のタイミングでのれんをはねあげた。ぬるい水、で玄関に上がると「いらっしゃい」の声がかかった。なだめるような声だった。それでもかえるさんはまだカーブを切っていた。「先払いです」かえるさんはカーブをさらに切って番台に逆戻りした。


330かえる円を払って脱衣所に入った。かえるさんは何も着ていなかったので、脱衣かごに入れるものがなかった。入れるものがないので、梅雨も終わりにちかづくと、空のかごを脱衣箱に入れて、かえるの肌は、鍵をかけて、乾きがちだった。かえるさんはカーブを切って浴場の戸を開けた。


そんなかえるに、手桶で水を汲んで、けろっと湿ったぬるい水。もう一度汲んで、けろっと湿ったぬるい水。梅雨も終わりに近づいた。かえるさんはざぶんとぬるい水に体をつけた。ああ、と声が出た。わーん、と声はあちこちからはねかえってきた。ようやくカーブを曲がりきった。かえるさんは目の下まで水につかってから、体を伸ばした。足がゆらゆらと揺れてさざ波をとらえた。誰かの、わーん、という声が聞こえた。





第四十話 | 目次