かえるさんレイクサイド (34)浅い眠りからさめて目を開けてはみたものの、外はとんでもない寒さらしかった。かえるさんがこたつにあたりながら背中を固くしていると、「びわこ8」の時間になった。「ではここで、さわやかクリニック!です。」アナウンサーの声と同時に、とつぜん亀の顔がアップになった。「この季節、ひなたぼっこをしに出窓に出られる方が多いのですが、冬の陽射しをなめてかかってはいけません。直射日光はたとえ冬でもお肌に刺激になります。とくに乾燥に弱い肌の方は、あたりすぎるとあとであちこちかゆくなります。」 金亀先生は、ブラウン管の中でも立て板に水でしゃべっていた。「毎年そういう方が冬にたくさん来院しますもんで。皮膚科のわたしもどうしたものかと考えておりました。そこで、今日はこれをご紹介したいと思います。」先生は甲羅の中から小さなかたまりを取り出した。てのひらにのせてかかげると、ぱらぱらと粉が落ちた。「この匂いは・・・ふなずしですか?」アナウンサーがたずねた。 「そう、ふなずしですね。しかし、ふなずしだけではありません。その下にあるものをよく御覧になって下さい。」また、てのひらから粉が落ちて光った。「この粉は・・・クラッカーですか?」「そう、クラッカーですね。ふなずしはビタミンも豊富で冬の乾燥肌にとてもよいのですが、この匂いがダメ、という方もおられる。そこで、ふなずしの下にクラッカーを敷きますと、これがクラッカーの香ばしい匂いとふなずしがマッチして意外に食べやすい。固いのがダメ、という方は少し水でふやかせば、これが藻の匂いもプラスで意外に食べやすい。いや、わたしは皮膚科なのですが。では少しいただいてみましょう。」先生の口元から粉がぽろぽろとこぼれた。 かえるさんは、ふなずし定食のことを思い出して、喫茶かえるに行くことにした。いつものように伊吹山の見える窓辺に座ってメニューを広げると、端のほうに、思った通りクラッカーがあった。そのクラッカーとふなずし定食を頼んだ。 先に来たクラッカーをかじりながら、かえるさんは伊吹山を眺めた。雲がかかり始めていた。雲の下がかすんでいた。そこはきっととんでもない寒さのはずだ。カウンターからふなずしの匂いがする。ふなずしはもうすぐ、口の中でクラッカーと混じる。かえるさんはもう一度伊吹山を見た。背中が固くなった。口元からぽろぽろと粉がこぼれた。 |