The Beach : Nov. a 2003


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20031115

 静岡県立大学の日本英語学会のワークショップで、日本語における左右のあいまい性をめぐる相互作用について発表。他の人たちの発表が言語の時間軸をめぐる発表だったので、ちょっと浮いてしまった感じ。それはそれとして、用法を考えながら時間を扱う認知言語学の手法には、いろいろ可能性があると思った。この前書いた忘却論の話ともつながる。

 みなさんとお話したかったが、新幹線で新大阪へ移動。ボトムアップ人間関係研究会。今日は顔合わせも兼ねてそれぞれの人のやっていることを自己紹介していくの会。教育、医療などさまざまなフィールドワークの話を聞いていると、わー、ビデオ撮って分析してー、という感想がわく。いろいろ考えることがあったはずなのだが、メモ帳にはなぜか「地域通貨本位制」という謎のことばが書かれていた。宿泊先の宿の向かいの飲み屋の酒がうまく、いささか飲み過ぎた。


20031114

 ゼミ二本。データの話と忘却の話。夜、静岡へ。宿で明日の発表の準備の続き。英語発表というのが難儀。日本語のあいまい性を英語で説明するわけだが、あいまいであるということをはっきり説明するのは面倒。


20031113

 明後日の準備。Levinsonを読み直す。

 戦争を中途で終わらせるには降伏の相手を作ることが必要だが、アメリカは相手を降伏させるのではなく、殲滅することを目指している。その戦いが「終わりなき戦い」になるのは当然である。
 イラクでの米兵の死者数からして、イラクはいまだ戦場に違いない。そこにアメリカの要請を受け、アメリカの同盟国として日本は自衛隊を派遣しようとしている。たとえそれが「復興支援」のためだと言っても、それは「復興支援」とは違う意味を帯びるだろう。こちらは復興支援のつもりでも、行く場所は戦場であり迷彩服を着た日本人はアメリカ兵の味方だろう。

 福田官房長官は、その危険性を「東京で交通事故に出会う」確率にたとえた。
常人なら簡単に死ぬはずの場面をきわどく避ける訓練を受けてきた人々が、交通事故に遭うように死んでしまうかもしれない、イラクのいまはそんな場所だと知りながら、そのことには意識をとどかせず、ただ確率の等しさによって自らをまるめこもうとする。戦争シロウトが聞いてもあまりに無自覚で、人の生き死にをナメた発言である。
 驚いたことに私の見た複数のニュースキャスターは、この、まったく不用意な発言をさらりと聞き流した。もう、人の生死にまともな手応えを感じる人が、この国のTVメディアにはなくなりつつあるに違いない。そのようなTVを見続ける人にとっても、生死の手応えはもはや希薄なものだろう。


20031112

 月曜振り替え。振り替え休日の影響で、月曜の講義が極端に少なくなるので、年に何回か他の曜日と時間割を交代する。今日もそのひとつ。美術とか芸 術は個人の創造の発露だと思われているが、それは誤解であり、絵はずっとコミュニケーションの産物であったし、他者によってしか生き残り得ないという話。


20031111

 ぐっすり寝たら熱はさがった。
科研費は今日でなんとかフィニッシュ。向かいの竹下さんの部屋とこちらを何往復かする。科研費の申請はめん どうくさいが、いいところもなくはない。ひとつは、いつもはあまりやらない「研究の未来」の話をする機会となること。もうひとつは、日頃縁のない高額の機 器の市場価格を知る機会になるということ。アイマークレコーダーとか光トポグラフィ装置といったものは、ふだんはあてにする財源がないからはなから値段を 調べる気にならないが、でかい科研費が当たれば、いちおう購入可能であることがわかる。

  夕方、名古屋へ。ボブ・オスタータグ、ピエール・エベールの「Science & Gabage」。これはとてつもなくおもしろかった。
ご く最初にあらわれる二人のしぐさで、このシステムがじつにうまく表わされる。ボブがコーラを飲み干し、コーラ缶をつぶしてからそれを提示装置に置く。する とつぶれた缶がダブルになる。あれ、と思っていると、ボブがまたコーラを取りだして飲んでいる。じつにさりげないのに、現在に過去がいきなり割って入って きたような不思議な感覚が生まれる。
 エベールが象形文字のような絵を描いて、それをさっとぬぐってしまう。ぬぐった軌跡が残る。ぬぐった軌跡の先に、現在が描かれる。
 そうやってはじまった「リヴィング・シネマ」は、アニメーションというよりも、描いた過去が現在に参入しては世界を組み替えていくシステムだった。それ は単に生き生きとしているというだけでなく、生に死を重ねまた生を重ね、空にポテトチップをふりかけ、兵隊の手から点線を乱射させ、花をうずめ石をうずめ 花をうずめ石をうずめていく。
どのアイコンも、911以降から現在までのアメリカを想起せずにはいられないものでありながら、それはニュース番組や新聞とはまったく違う手つきで読み替えられていく。

  上演後のトークショーでエベールが言っていたこと。「911以前の美術は何でもかんでも無意味だった。ところが911以降では、何をやっても意味を帯びて しまうことになった」。もともとホームレスのためのパフォーマンスとして始めたこのパフォーマンスでは、ごみはホームレスにまつわるものだったのが、 911の後では、倒壊するビルの埃であるかのように受け取られ出したという。「世界の歴史がこちらの世界に侵攻してきた。だから、窓を開けて、それを入れ てやることにしたんだ。」。そうしたさまざまなポスト911的読み替えをぬぐい、描き足し、それでもまとわりついてくる「歴史」に対して、声高に意見を述 べるのではなく、フラジャイルな態度を保つ。それはとても深い体験だという。


20031110

 朝、悪寒がする。昨日、ふきっさらしの中でファッションショーを見ていたせいかもしれない。ドラッグストアに行って風邪薬を買ってからゼミに。寿司ジェスチャーは何を握っているのかについて、それなりに仮説がでる。
  まだ書類はあがってないが、どうにもキーボードに体がむかわない。帰って夜まで寝る。たっぷり寝汗をかいたら少しましになった。起きてまた書類書き。夜中 にサンフランシスコの高田くんに電話。高田くんは狩猟採集民サンの養育行動研究という、人類学と発達心理学をむすびつける世界的にも貴重な仕事をしてい る。金がとれたらあれもしようこれもしようと話す。


20031109

 さらに。朝、選挙に行ってから、あとはひたすら書類書き。
息抜きは大学祭。環境の建築系のひとたちがやっているカフェに行ってみる。Q座の旧美容室にあった鏡をどんとテーブルに敷いた、大胆なレイアウト。プロジェクタもがんがん使われていてリッチな感じ。

  夜は生活デザイン専攻のファッションショー。これは開学以来続いているもので、毎年ノウハウが蓄積されて、演出のクオリティはずいぶん上がってきた。幕間 のムービーや音楽の編集が徹底してきたのは、やはりパソコンの進化の影響か。こういうとき、女性は見せる方向に、男性は恥じらうかダサさを誇示する方向に 行く。

 選挙はすこぶる投票率が低い。勤務先の大学生は学園祭で盛り上がっていたが、選挙には行ったのだろうか。
夜、田原 総一郎がADをしかりながらえらく番組をあおっていて、こりゃあ歴史的選挙になりますよ、自民党が220を切るかも知れない、などとぶっていたが、そのう ち票があいていくと、自民が230を越えてしまった。田原総一郎の香具師ぶりにもあきれたが、どうにもつまらない結果になった。


20031108

 さらに科研費。もう何回書いたか分からないが、わたしは事務処理と会計が死ぬほど苦手である。むろん、やりたい研究はなんぼでもあるし、研究につ いてあれこれ書くのは苦痛ではない。ただ、こころにあることをこころにもないフォーマットで書くのが苦手なのだ。そして科研費の書類作成には、この「ここ ろにもないフォーマットでずらずらと書く」能力がフルに要求される。フォーマットといえば、わたしはワープロ書類のタテ罫線やらマス目が大キライである。 そして科研費の書類は、これのオンパレードである。悶絶寸前である。

 悶絶寸前でも指を動かさねば仕事は進まない。大学では学園祭。窓越しにひびくバンド演奏をBGMに書類をばこばこ打ち込む。書類作成マシンと化す。

  休憩がわりに、人間関係専攻1回生の「おばけ屋敷」にいってみる。じつは行く前までは、なんと子供じみた企画を、とちょっとバカにしていたのだが、中に入 るとなかなかよくできていて感心した。特に、暗闇で響かせる音(ビデオ音声と生の声や音との混ぜ方)や床の感触の変化にさまざまな工夫があった。西澤くん が、「実習でやったことの応用が入ってるんです」というのでそうかとわかったが、これは行動実験実習でやったブラインド・ウォークの体験が効いているの だ。
近所の子供がどんどん来ていて、15:00の時点でもう整理券は売り切れだそうだ。ええやん、お化け屋敷。


20031107


 科研費の書類作成。思ったより時間がかかる。自分の得意分野の話を書くのは簡単だが、他の班とのすりあわせをどうするかが悩ましいところ。その他、予算算出でカタログを集めたり、いろいろ難儀。

 忘却論、定延さんからあれこれコメントがかえってくる。さすがに鋭い視点満載。これに沿って書き直せば、当初の予想をこえてまっとうな考察になりそうだ。


20031106

 以前に、日本絵葉書会の会報に「絵は がき映画」という文章を書いて、カレル・ゼマンの「彗星に乗って」を紹介した。そのときは、近くでまさか上映会が行なわれるとは思っていなかったが、なん とすばらしいことにすでに東京を皮切りにカレル・ゼマン・レトロスペクティブが巡回しており、9日から京都みなみ会館でも上映される。これはなんとしても いかなくては。水玉の幻想をスクリーン・サイズで見たら泣くよ。きっと。

 というわけで、その、「絵はがき映画」の話。


20031105

 ゼミで三角関係を語るジェスチャーを 見続ける。人が自分の手を思わす握りこんでしまう「寿司ジェスチャー」、キャラクタ視点ジェスチャーと観察者視点ジェスチャーの中間体というべき「パペッ ト・マペット現象」、そして手を口の前でぱくぱくさせることでパペット・ジェスチャーをキャラクタ視点ジェスチャ化する「神の息吹」など、いろいろ考察に 値する問題が出る。
「Neta of conversation and Sushi gesture」などというアヤシイ論文を書いてみたいものである。

 システムソフトの電子辞典は、OS 9時代はけっこう使い込んでいたのだが、OS Xになって使える辞典が限られたこともあって、しばらく遠ざかっていた。ひさしぶりにサイトを訪れてみると、開発がロゴヴィスタに移動しており、OS 10.3用の最新版が出ていた。以前にくらべるとダブルクリックによる即時検索やドラッグ&ドロップへの対応など、だいぶ使いやすくなっていた。


20031104

 学園祭が近いせいもあって、大学にいると「チケット買って下さい」や「○○貸して下さい」のお願いが次々にやってくる。もちろんニコヤカに応対させていただく。が、このままでは頭の皿の水がこぼれてしようがない。すまないが喫茶店に退却する。
宇 波くんから、月末のハットリフェスティバルの企画電話。唄をやりましょう、という。以前からこんなときには、「ふなずしの唄」「音痴の唄」という二大名曲 のみで乗り切ってきたわたしであるが、夜にギターを抱えていると「てるてる家族」の工場シーンのように詩興がわき、新曲を三曲ほどパソコンに吹き込んで mp3にする。
そういえば「不吉な演歌」というものが世の中にはないなと思ってつくった「東京事件」は、ご当地・流れ者・夜の街と、演歌の要素が ばっちり入ってしかも不吉。できた瞬間は自分でも笑えるほど名曲だと思ったが、唄うほどに普通の曲のような気がしてきた。下記がその歌詞。生をご所望の方 は、11/29(土)代々木オフサイト「服部フェスティバル」へどうぞ。

「東京事件」

高いビルなど見飽きたが
登ってきたのさ見下ろす東京
上に行くのか上に行くのか昇降機
新宿で新宿で
見かけたようなあの事件

いなせな風にひかされて
流れてきたのさ下町東京
サンバブラジルサンバブラジル浅草の
仲見世に仲見世に
飾ってあったあの事件

見上げるタワーにあかね雲
さすらうばかりかビジネス東京
夜のとばりの夜のとばりのガード下
新橋で新橋で
小耳にはさんだあの事件

見知らぬ恋にあこがれて
一人来たのさ夜更けの東京
氷川神社だ氷川神社だお稲荷だ
赤坂で赤坂で
知らずに過ぎたあの事件


20031103

 パソコンのDVD playerを操作していると、せっかくパソコンなのだから、もっとソフトの上であれこれできればと思う。たとえば、狙った時刻の映像をすぐ呼び出す、なんてことはできるはずだ。
・・・と思ったら、MacのDVD Player 3.1以降には、アップルスクリプトメニューがついていて、その中にGo To Timeというのがあった。時刻を打ち込むとそこから再生される。これは便利。
しかし、いちいち時刻を打つのは面倒だ。チャプタの途中のあの場面をすぐ見たい、というときにそれを呼び出せればもっといいのに・・・

 というわけで作りました。DVD to Excel, Excel to DVD script.

  DVDで再生中や停止中に、現在の再生時刻をExcelのセルにワンタッチで入力する。さらに、Excelのほうで選んだ時刻に従って再生することもでき る。隣のセルにメモをつけておけば、あとでわかりやすい。これで、チャプタとは別に、自分で好きなところからDVDを再生できる。Excelだから並べ替 えも簡単。
たとえば、DVD to Excel.scptで「麦秋」で気になるところをいくつかメモるとこんな感じになる。

01:00:07    ケーキ問答
01:04:40    おみやげの包み
01:13:32    子供を捜して矢部の家にいく紀子
01:24:32    再び矢部の家にいく紀子
01:26:04    じつはね・・・
01:37:05    たみが出口をまちがえる
01:39:58    踏切で
01:41:00    アヤと紀子の話
01:43:06    結婚する気になった理由 
01:44:21    忘れ物をとりにくるアヤの母親(一度目)
01:45:07    忘れ物をとりにくるアヤの母親(二度目)
01:46:26    忘れ物をとりにくるアヤの母親(三度目)

 以上のポイントを見たいときにはExcel to DVD.scptを使えば一発で呼び出せるというわけ。
ただし、じっさいには、セリフの書き起こし以外には使わないことにしている。あまり断片ばかりを繰り返し見過ぎると、映画の流れを忘れてしまって、不感症になってしまうから。
このスクリプトは、映画作品よりも、むしろ自分で焼いたDVDを見るのに便利。いちいちDVD 焼くときにチャプタを気にしなくてよい。


20031102

 さらに忘却論を書いている。40頁くらいになった。


20031101

 DVDで「麦秋」を見直し。これまた10年ぶりくらい。あまりにもいろいろなことを忘れている自分にあきれる。前に杉 村春子がくるりと回るのは「麦秋」だと書いたが、あれは勘違いだった(ただし紀子の会社で出口をまちがえるという場面はある)。となると「秋刀魚の味」 だったか「晩春」だったか。このようなザルな記憶で「東京物語」論を書き進めている自分があまりに情けない。テーマが忘却なのが唯一の救い。


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