前日 | 月別 | 翌日

20020921







 さて午後は飛行機に乗らなくてはいけない。朝のうちにベルンを散歩でもするか、と思い、ふらりと入った店でトゥーンの版画を繰るうちに、なんということか、ヴォッヒャーのパノラマの木版を見つけてしまった。

 値段はスイス的にとんでもなかったが、ここで出会った以上買うしかない。銀行に行って来るからとって置いてくれと店主に頼んで、キャッシュ・ディスペンサを探しに外に出る。こういうときに限ってどこにでもありそうなマシンがない。歩きなれた通りなのに、どの店も遠ざかって見える。結局30分くらいうろうろうろたえてようやく戻る。

 長い筒の荷物が増えた。これを日本までなくさないように持って帰らなくてはならない。こうなると、移動が憂鬱だが、飛行機のチケットは買ってしまった。
 ベルンからチューリッヒ空港まで1時間半、そこからミラノ経由でリスボンに飛ぶ。もちろん窓際の席を取る。もし晴れていたら、真下はアルプスだ。

 残念ながらほとんどのエリアは雲で覆われていた。飛行機に乗る度に思うのだが、雲見学のツアーというものはないのだろうか。気象学に通じているコンダクタが、雲の形を見ながら、あそこでは暖かい空気と冷たい空気の境目が斜めに走ってます、とか、この形からして真下は湖で空気が冷やされているはずです、てな具合に、刻々と変化する雲の動きを解説してくれるようなやつ。
 飛ぶたびに臨機応変に解説しなければならないから、コンダクタがかなり有能でないと難しいだろうが、もしあったらぜひ体験したい。

 雲は山の高さに応じてわきあがるらしく、その起伏は見ていて飽きない。そして、わずかな晴れ間からとんでもない氷河が見えた。

 ミラノで乗り継ぎ。飛行機が遅れ、バーでワインを3杯くらい飲み終えた頃、ようやく搭乗のサインがついた。すっかり酩酊。
 リスボンに着いたらすでに真夜中。ひとけのないバス停で最終バスを待ち、街中の広場へ。地図を見ながら予約を入れた宿の場所を探す。長い筒をなくさないか、そればかりが気がかり。

 何か探してるの?と人気のない通りで声をかけられる。初めての土地で親切に出会ったとき、それを受けるのは一つの賭けだ。真夜中ならなおさらだ。幸い彼の親切には邪心のかけらもなく、ホテルの前まで案内してくれた。握手して別れる。賭けはとりあえず一勝。このまま勝ち逃げできればいいが。

前日 | 月別 | 翌日


to the Beach contents