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20000802


Bordeaux



 月曜日にライブを決めて、火曜日に電話をかけて、水曜日にチラシをまいて、夜にはやりましたー。というわけで、おとつい、急にゆうこさんと組んでオフィスの1Fのカフェでライブをやることになり、フランクは知り合いに何本も電話をかけ、ランチに行きがてらあちこちの店にチラシをまいた。素早く無駄のない情宣に感心する。

 夕方、オフィスを借りての作業が一段落し、そういやまだボルドーの中心街を見ていないことに気づき、ライブの打ち合わせがてら、町に出る。いかにもな観光街をまっすぐ抜け、パサージュをくぐり、カルーセルを過ぎ、現代美術館(capc)へ。ちょうどPresum市 de innocenceという、子供時代をめぐる企画展をやっていた。入口にいきなり奈良美智の絵があって驚く。
 展覧会のテーマは下手をすると「誰がいちばん抑圧されたか合戦」になりかねないけれど、全体的には、えげつないシーンを露悪するよりも、子供にとってごく日常的な行為の痕跡をとらえること、子供から漏れてくる現象をとらえることに関ろうとしている作品が多く、素直に見れる企画だった。
 それにしてもダーガーが2枚来てるとは知らなかった。ラッキー。でも子供が扱われていることを除くと、この展覧会の中ではダーガーはかなり特異な存在だった。子供から漏れてくるのではなく、やはりダーガーから漏れてくるのだ。

 他にジェフ・クーンズからゴダールまでさまざま。ポール・マッカーシーらのオブジェを見ながら、この文脈なら、たとえばヌグマトピアが入りうるのではないかと思った。
 中で印象に残ったのは、Tracey Moffattの写真シリーズ Scarred for Life II で、「両親が出かけた隙に兄は母親そっくりに変装した。幼い弟は、一瞬、じつは兄が母親だったのだと真剣に思った」「母親が情事にかまけている間に、キャンピングカーに閉じ込められた息子たちは泣く泣くポテトチップスの袋に小便をした」といったキャプションとともに、撮影不可能なはずのこうした瞬間を、演じることでなぞっている写真。19世紀風の絵葉書や写真物語のスタイルで、ごく個人的な事件を「ニュース」あるいは「物語」としてフレームアップさせる手つき。子供と子供を見る視線にともに距離を設ける周到さ。

 それにしてもでかいな。昔倉庫か何かだったらしい美術館の作りはアーチをくぐっていきながら作品を見る感覚が楽しい。

 帰りの道すがら、ゆうこさんに、この前やっていたメトロノームをチェス仕立てにしようと提案する。つまり、一人1アクションという縛りを入れて、交替で一手ずつ動かしていく。たっぷりと考える時間をとり、長考の過程も含めてお見せする。「じゃ、音チェックだけして、あまりリハやらずにいきなりやろう」ということになる。

 で、Yuko Nexus6+Hiromichi Hosomaという何のひねりもないユニット名で本番。じつは二人で組んでやるのは何年かぶり。それにしても、わずか2日の情宣でスタッフを除いて20人くらい来てるので驚いた。フランクの人脈恐るべし。
 1セットめはコンタクトマイクもの。打ち合わせ通り、一手ずつ進める。これが結局いちばん拍手が多かった。
 2セットめはゆうこさんのMAX+ぼくのハイパーカードでお茶を濁す。まず、Bit Spinのヴィジュアルで一曲。昨日のチーズなぞなぞを使ったやつで一曲。観客一人一人にワインリストを開くソムリエよろしく、ノートパソコンを無言で開いてなぞなぞをお見せし、ゆうこさんがそれに音楽を付けるというもの。Tile Composerで一曲。最後に昨日と今日撮影したビデオをQuickTimeに落としたものを自作のスタックで操作して一曲。ヨーロッパのアダプタとつなげることができなかったので、パワーブックのモニタで見せたのだが、QuickTimeものはでかいモニタが欲しいところだった。

 終了後、サーシャに、「1セットめはチェスみたいでほんと面白かったわ」と言われる。そう、まさにそれが狙いだったんだ、と答えると、「でも、あなたがメトロノームの蓋を落としたとき勝負あったって感じだったわね」。

 アイリッシュ・カフェで打ち上げ。「トム・ジョーンズで踊ろう!」という客たちの誘いを振り切ってフランク宅へ戻る。

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Beach diary