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20000801


Bordeaux



 ボルドーに来たらワイン。別にワインの見識などないが、フランクの誘いで近くのワイナリーへ。見晴らしのいい丘に建つ貯蔵庫とブドウ畑。ワインはクリアであちこちに分け入るような味。日本の酒蔵案内でもそうだけど、あれこれのウンチクもさることながら「日の高いうちから飲む」というところにハレがましさがある。展望台にはタイルの鳥瞰図。ボルドーの屈曲した川が半弧に描かれその中にタイルで断片化された町が埋めこまれている。

 フランクの部屋に戻り昼食。広くて薄暗い事務所のフロアの一角を借りて仕事。

 そしてボルドーに来たら浜。というわけで、20時になって「そろそろいい時間かな」というフランクに従って出かける。フランクは繰り返し、Dune de Pylaはヨーロッパ最大のデューンなんだ、という。そんな場所へ、こんなに遅くから行ってどうするのか。とはいえ、この時間でもまだ外は明るい。高速をぶっとばすこと1時間、21時の森の途切れめから突然砂の丘が現れる。
 駐車場に降りてふもとまで来ると見上げるような丘にプラスチックの細く長い階段が頂上までついている。わあとかきゃあとかいう絶叫が聞こえるので少し横に眼を移すと、砂と空の境目あたりから人が湧き出しては、階段を使わずにものすごい勢いで砂を踏んで駆け降りてくる。
 愛宕山のような階段を上り、後ろを振り返ると、じつは車をとめた駐車場はほんの小さな広場で、あとは茫々たる樹海、前を見ると稜線だと思ったのはまだほんの中腹で、さらに上ると、ようやく砂の切れ目に水平線がわずかに現れる。それがみるみる長くなる。そして今度こそ砂の背中に来ると、吹き寄せる風が形作った柔らかな尾根が延々と南に走っている。左は森林へと吸い込まれる砂、右は浜へと降りる砂、森林と海の境界は広大な砂の領域で、フランクは、アロウ、アメリカ、と海の向こうに呼びかけるので、長い水平線は大西洋だと分かる。その大西洋に早くもアンヌが一気に駆け降りているところで、それにならって勢いをつけて足を前に出すと、出過ぎたと思った足を砂が受け止め、自然と体が傾斜して、巨人のような足取りで砂を踏み飛ばしていけることに気づく。何かを引いたらしい跡が砂を掘り起こし砂丘の腹を細い線で区切っているので、それが何かの境なのだと思い足を緩めるが、まだ浜までは見下ろすほどあり、もうアンヌは服を脱ぎ始めているので、さらに歩幅を広げると上体はのけぞる。犬が波打ち際を選ぶように走っているのが見える。アンヌがずぶずぶと波に入り体を預けている。海は迷わず泳げる場所だ。ようやく海と同じ高さにたどりつき、靴を脱ぎ、足を踏み入れると思わぬ冷たさで、アンヌやサーシャはなぜためらわずにこんなところへ体をつけることができるのだろうと思うが、浜で眺めているのもシャクなので、とにかく服だけは脱いで腰まで波につかると、しびれるような冷たさで、地元民のフランクだって上半身をつけるときは身構えてから少し時間を要したのだから、ひとかきふたかきして胸に水を浴びせてからようやくうつぶせに体をつける。このまま泳いで体が暖まるのかどうかは、まだわからない。

 塩気の残った体をざっと拭いて、帰りに上る砂丘のきつさ。さっきあっという間に駆け降りたことが信じられない。黄昏を選んだフランクは正しかった。昼日中ならぶっ倒れているところだ。
 ようやく頂上にたどりついて森林側の傾斜にあおむけに寝転ぶと、視界の端に砂の稜線。空は暗くなり、次第にテクスチャと奥行きを失っていく。再び端に眼をやり、砂の地平線から奥行きを建て直す。それを何度も繰り返す。昨年見たタレルのカイクダインに似ている。

 23時ごろ戻る。フランクが炒めたカレー味のアーティーチョークに食後はチーズ、午前に買ったワインをみんなで飲み干す。クリームチーズの包み紙にひとつひとつ違うなぞなぞが書いてある。これを明日のライブで使おう。

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Beach diary