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19990816




 Luzernでいちばん大きい本屋というのに行ってみるが、好みの品ぞろえじゃなかった。ただ、マーク・トエインの「ルツェルン紀行」なんて本が見つかったのは収穫。60
で19CHFはちと高いが、巻末にルツェルンのパノラマ画が折り込まれていたのでよしとするか。中身の方は、ツーリズム華やかなりし頃に書かれた、皮肉たっぷりの文章だ。昨日行った教会の話も載っているな。ちょっと訳してみよう。

 Hofkircheはオルガンコンサートで有名だ。夏の間ずっと、ツーリストたちが夕方6時ごろには教会に群がっては、金を払い、騒音に耳を傾ける。全部聞くまで居続けるわけではない、立ち上がっては騒々しく石の床を踏みならして去っていく。すれ違うようにお次の入場者が勢いよくどたばたと駆け込んでくる。かくしてドタバタは寄せては返し、ほとんどひっきりなしに続く。そこにアクセントをつけるように、ドアのぴしゃりと閉まる音、そして集うた人々のエヘンだのゴホンだのハクションだの。それを吹き飛ばすかのようにでかいオルガンがごうごうがさがさと雷鳴のごとく鳴り響き、我こそはヨーロッパ最大最強のオルガンなり、我が力のほどを見積もり、その力がありがたく思われるなら、固く小さき御箱こそその意を表すにふさわしい場所であるぞ、とのたまうのだ。確かに柔らく慈悲深いパッセージもある。が、ツーリストたちのばたばたのおかげで、いわばごく断片的に垣間見えるだけだ。そしてすぐさま、オルガニストは次の雷鳴になだれ込む。

(Mark Twain "Holiday in Lucern" from "Tramp abroad")


 どうりで表に"Visitors do not walk around the church now" なんて書いてあったわけだ。まあ、ぼくはミサの最中にいたのでさすがにこんなひどい情景にはお目にかからなかった。不信心者が何人か、司祭の説教の最中にしゃべりながらフラッシュをたいて絵を撮っていたけれど。

 市立図書館。ここにはさすがにLuzernの昔の図像を集めた本が充実している。パノラマ関係の本を漁る。ブルバキのパノラマが建てられた当時の絵もいくつか見つかった。たぶんブルバキのパノラマが再築されれば、この種の本がまた出るだろう。
 いくつか19世紀のパノラマ画らしきものがヒットした。一応申請してみると、「稀少なものなので奥の人に頼んでみないと」と言われる。「急なことですいませんが旅行者なもんでもしできるならばこの機会にぜひ」と純朴で無知な旅行者を装い(無知はその通りなのだが)待つことしばし。出してくれたではないか。すばらしい。奥の部屋でじっくり拝見する。1818年のクレジットがついているRigi山を中心にした円形のパノラマ画だ。このタイプのものはOestermanやコマンの本にも引用されているが、白黒のコピーで図版も小さかったのでいまいちその良さがわからなかった。しかし、これはすごい。まず彩色の緑色の微妙さ。山頂を中心に徐々に濃くなりながら、変形した稜線が見事に描き分けられている。そしてその大きさ。中央付近に眼を据え、高さ数十cmのところから眺めると、視野のかなりの部分が絵で占められ、まさに覗き込んでいる感覚が生じる。円形に描かれているので、端がたわんでいるのだが、そのことで、かえって、見えない世界を覗き込み得たような不思議な気分になる。
 感じ入って眺めていると、もうひとつ、携帯用の折り畳みのパノラマ画も出してくれた。やはりRigi山のものだが、こちらは白黒で、おそらく使った人が自分で彩色したらしく、湖に水色、ルートの一部にオレンジ色が塗られている。折り畳むとちょうど野帳くらいの大きさになる。
 こうして見ていると、ぜひとも実際の眺望も見たくなる。明日はRigi山登りだな。

 昨日に続いてOpen Air Kino. 今日は月曜で雨がちなせいかずいぶんすいているが、それでもざっと300人は入っている。しかしもうミーゴーレンはこりごりだな。「再入場できますか?」「はいチケット」なんだ、できるじゃん。いったんバスで駅前のマクドでコーヒー(コーヒーだけなら安い)、しばし読書。それからまた Open Airへ。
 今日の出し物はTrickfilm大会。日本でいうところの「(実験)アニメーション」。ドイツ語では絵によるアニメーションをZeichentrick(ドローイングトリック)という。いっぽう粘土アニメやコンピューターアニメには Plastinaimation、Computeranimation と、アニメーションということばが使われる。しかし、トリックフィルムっていうと、トリックアートみたいでなんか変だな。

 内容は今年のアヌシーの受賞作が中心。アヌシーでは湖畔の上映が恒例らしいから、この湖畔のオープンエアでの上映は、それにならったのかもしれない。ざっとメモっておこう。

▼Bonne Journee, Monsieur M. (スイス)ぶたさんのいびきでハトさんが眠れません。最後のクレジットが映画の前によくやってるスライド広告みたい。
▼When the Day Breaks. (NFB) Tily & Forbis. これはアニメ版「檸檬」か?ニワトリさんの交通事故にかかわったブタさんの脳裏に去来する人生は水道管を経て世界に直結する。クローズアップで視界を限りながら転換する場面がたまらん。前半、ブタさんが唄いながら椅子に乗るシークエンスひとつとっても、画面の区切り方がすごい。もう一度見たい。
▼Replay (スイス)花と恋と輪廻。
▼Un jour (フランス)腹に子供を差して生きる人々の生活。Raw系のマンガのような版画風タッチのきめの動き。もう少し続きを見たい感じ。
▼Die Liebe der Mannequins(ドイツ)スーパーモデルから下着カタログまで、モデルの人々がグラビアの上で口をぱくぱくさせます。
▼Friss, Vogel oder stirb(ドイツ)酒場に強盗。動物がでてくりゃいいってもんじゃないだろう。
▼Carcasses et Crustaces(スイス)実写とコンピューターアニメの合成によるタイタニック。このZ. Horvathという人はかなり変。名前を覚えておこう。顔におっぱいやら別の顔やらを貼り付けているおっさんの表情がたまらん。どこもかしこもとても悪趣味なコラージュに満ちていて、かなり好き。
▼Jolly Roger(イギリス)Mark Bakerの諧謔に満ちた海賊アニメ。青に線で海。オープンエアにふさわしいシンプルな画面。Fuuull Saiiiil! 技術よりセンスという見本。終わってから誰かが挿入曲の口笛を吹いていた。
▼Feuerhaus(ドイツ) Neubauerのフォトグラム風ブリープ画面。マクラレンがオスカーピーターソンでやったことを髣髴とさせた。これ、一枚一枚撮影したんだろうなあ。後半、誰かがキメているのか甘い匂いが漂ってくる。まあ、それ向きの映像でもある。
▼La difference (カナダ)酒場のカウンターでのゲイの妄想。変形ぐあいがじつに妙。ちょっと久里洋二を思い出した。カメレオンとハエのシークエンスが繰り返し挿入されるんだけど、そのタイミングもいい。
▼Maaz(フランス)ノスタルジックでバンドデシネなボールルームラビリンスであなたはもう一人の自分に出会う・・・といった90年代MTV風。まああれこれテクは使ってあるが、どこがおもろいねん、これ。
▼Au bout du monde(フランス)丘の上の家は右に左に傾くのであった。場面限定の妙。

というわけで11時過ぎまで見て部屋に戻る。

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