六区の賑わいが立ち上ってくるようで好きな絵葉書のひとつ。道中に脚立でも立てて撮影したのだろうか。雑踏を見下ろす高いアングルだ。あちこちに警官が立っているのは、混雑を予期してのことだろうか。道の突き当たりにわずかに仁丹の看板が覗き、大勝館のかげから十二階が顔を出している。 幟(のぼり)が並んでいる。そのはためきが頭上の空気の流れを示している。人波の足元はほとんど見えない。幟の字を見上げながら立ち止まっているかのように見える。その頭上を、風が渡っている。 一人、画面左の軒上に職人が写っている。幟と同じ高さに、道化のように足を差し出している。写真の中で両足を見せているのはこの職人だけだ。映画館の旗の影とともに壁に刻印されたかのような体。その足が踏み出されるとき、雑踏は動きを取り戻すだろう。 (2001 August 6) |