「緋牡丹博徒・お竜参上」地図

 「緋牡丹博徒・お竜参上」(加藤泰監督)は、映画のあちこちに凌雲閣こと十二階が表われてクライマックスへと導かれる、十二階映画とも言うべき作品。ここでは簡単に舞台となる浅草近辺の地理をおさえておこう。

 緋牡丹のお竜こと矢野竜子が浅草に表われた最初のシーンでスリ(山城新吾・山岸映子)に出くわす。これは六区の電気館前(1)。ちなみに、「浅草双紙」(浅草の会)に添えられた昭和20年代の地図には、スリの徘徊する場所がマークで記されていて興味深いのだが、この電気館前にはずばりそのマークが入っている。もしかすると、映画のこのエピソードには、戦後の記憶が重なっているのかもしれない。
 鉄砲久の親分(嵐寛寿郎)の住まいは「千束町」で、六区の通りを「どーんと行ったところ」(2)。三原葉子が涙の対面を見ながら延々と蜜柑を食うのはここである。じっさいには千束町といっても、十二階下から言問通りの向こうまで広いので、「そこらでもういっぺんきいとくんない」というのが正しい。
 お君(山岸映子)が鮫州政の子分に襲われるのは淡島堂(3)で、六区から花屋敷前の四区を抜けたあたり。四区は当時茶店が点在する公園で、人目をはばかり六区から連れ出すには手ごろな場所。
 鉄砲久が後ろ楯をしている佐藤一座の東京座は、電気館そばの東京館あたりを想定した架空の劇場か。青山(菅原文太)が「ひょうたん池(4)で待ってるぜ」と鮫州一家に言い残していくのは警察の目に止まるのを狙ってのこと。ひょうたん池の南端には交番もある。 →六区拡大図 (308k)

 敵役である鮫州の政五郎(安部徹)は「菊屋橋(5)の鮫州一家」と子分が名乗っていることから、六区から少し離れた新堀ばたあたりに住んでいたと考えられる。子分が延々と納豆をかきまぜるのはここである。鉄砲久のところまで歩いていけない距離でもないが、これくらい離れていれば人力車を使うのが親分の器量というものかもしれない。
 熊坂虎吉(若山富三郎)の登場で映画は一気に乱調に。その虎吉から馬車を借り受けたお竜は、橋にさしかかったところで、若衆(長谷川明男)に襲われる。橋は鉄橋、となると永代橋か吾妻橋(6)か。
 クライマックス、「緋牡丹博徒」の流れる場面では、欄干の看板に「今戸」の文字が見え、そこが今戸橋(7)であることが示されている。川は吉原のおはぐろ溝に通じている。二人の右手に、やがて決闘の舞台となる凌雲閣(8)の立ち姿が美しい。じっさいにはその方角を待乳山(9)がふさいでいるので、凌雲閣が見えたかどうかは疑わしいが、そこは映画の中の浅草のこと。



(2001 August 19)

口上 | 総目次 | リンク | 掲示板