東京名所浅草公園 吉原芸妓冨次





(神田区鍋町十五番地 画作発行人有山定次郎 明治二四年三月二五日発行)


 明治二四年の夏から秋にかけて、十二階で「百美人」なる催しが行われた。新橋や赤坂、吉原などの芸者の写真を百枚飾り、登覧客に投票を行なわせたもので、いわば美人コンテストの走りだった。当時の様子は岡本綺堂が東京日日新聞の記者として書いた「一日道中記」に詳しい。
 ところで、この石版画は、その「百美人」より三ヶ月以上前、明治二四年三月二五日に発行されている。つまり、芸妓と浅草名物十二階という取り合わせは、「百美人」企画よりも前にすでに考案されていたことになる。

 石版画はどこか心霊写真に似た妖気を放っている。石版画をJPEG圧縮すると、肌理がつぶれてやけにつるつるして見えるが、実際の石版では、細かい砂目がわかる。砂目は形にまとまり、また砂目に戻る。絵の変化ではなく見る者の知覚の変化によって、形は寄せては砕ける波のように現れ消える。知覚は意識より先に現れて、意識は知覚に驚く。この自分の知覚への驚きが霊となる。






2002 April

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