"Ayame-san" by James Murdoch (1892) より

Part 3 VII (1)



 冬の陽が明るく射していたものの、日陰は、刺すように寒かった。力が萎えてしまったせいか、ギフォードはおかしな行動に出た。なんと、一二度立ち止まり、コダックを操作したのだ。浅草の見世物地帯に出た彼は、とりわけ三人の小さな浮浪児たちの遊びに心打たれ、すぐに俥から降りると、絵の参考にするためにカメラで記録した。それから隅田川にとって返すと、とうとう観音様の寺に着き、川のすぐそばにある門をくぐった。

 目の前の光景は唯一無二だった。あたり一帯に立ち並ぶ木々は裸の枝を寒そうに震わせ、冬の陽射しが広々とした空間にあふれて申し訳ほどの温もりを投げていた。右手には、四角い巨山のような寺院の、くすんだ瓦がおおらかな放物線の傾斜を描いて、その重たげな庇、ずんぐりした柱、そして派手な破風は赤く塗りつけられ、畜殺場から来たかと思うほどだった。その周りには数え切れないほどの小屋だの神社だのが並び、いっぽう左手には比類なき五重塔、その重々しい屋根のさらに上には芋虫のような尖塔が、あたかも大枝を構えた木々の骸骨たちから難を逃れようとして、果たせなかったかのように立っている。さらに向こうの方には山門があり、その入口の天井には巨大なゴブリンのようなランタンが下がっており、がたぴしと重たそうな梁、垂木、破風、そして屋根が、巨大な冷たい影を背後の地面に投げかけている。


 そして真ん中の敷石からは「パタ!パタ!パタ!」とゲタが群れをなして鳴り響き、笑い、しゃべりあい、微笑み、こちらでは豪華な絹や縮緬がきらめき、あちらではぼろをはためかせ腫れ物を隠そうともせず、まるで無数のカカシのように行き交っている。盲人が4,5人、歩道を「タッタッタッ」とひとかたまりにずんずん歩いていく。冗談を言い合い笑いながら行くその様は、まるでその目にこの世がまともに見えているかのようだ。そして鳩が敷石の上のいたるところをかけずりまわり、穀物やら餌が群れのそばに投げ込まれるたびにちょこまかと追い回しては「クークークー」と声を立てる。
 御堂の中の光景はきてれつなものだった。それはまさに倒錯の極みで、悪魔と天使、王子と魔王が仏陀や観音と親しげに隣り合い、両替屋や、魔除け売りや、菓子売りが、信者に邪魔されることなく自らの使命を全うしている。信者はというと、両手を揉み、固く握り、唇を動かして声なき祈りを口にし、それはまるで糸であやつられた人形のようだ。
 中世、アラビアンナイト、そして強力なありとあらゆる悪夢を大鍋にぶちまけてよくかきまぜたようだった。
 ギフォードはこの光景を、わきあがる驚きと喜びとともに見た。ようやくそこを立ち去ると、門をくぐり、気がつくと小さな赤煉瓦の家々が長く続く場所に出た。どの家も店や小屋で、棟の間には舗装された長い小道が続いていた。この舗装路をぶらぶらするうちに突然、彼ははっとして、とある錦絵屋の前に文字通り釘付けになった。この突然の行動は行き交う人々の目を引いた。それでなくとも西洋人の奇妙な異国ぶりはいつも人々の目を引く。彼は気づかぬうちに熱心な見物人の一群に囲まれていた。が、気にもとめなかった。彼の眼には、あるものが、たった一つのものだけが映っていた。
 彼自身の描いた、あの弓の達人のスケッチが、目の前の錦絵屋の中にあったのだ。

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