浮喜世之夢(宮川春汀)



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縁日らしき情景。
右、女の子が覗いているのは「日清戦争からくり」。

(以下、20030701日記より

 おとつい買った覗きからくりの絵を描いている絵師、宮川春汀(1873〜1914) のことをネットで調べてみると、意外にぼくの関心に近い人物であることがわかった(やしの実大学)。 彼は博文館の挿絵画家で、柳田国男や田山花袋と親交があった。さらには、渥美半島の出身であるこの宮川春汀の話を聞いた柳田国男が、伊良湖を訪れて、椰子 の実の漂着のことを知り、その話を聞いた藤村があの「椰子の実」の詩をつくったというから、因果はめぐる糸車、それともまわる風車。

 花袋の「一兵卒」の主人公は、小説の終わりで渥美半島の出身であることが明かされるのだが、それがこの宮川氏と関係があるかもしれないという考察もある(後藤吉孝氏の「雑記草」)。

兵士がかれのポケットを探った。軍隊手帖を引き出すのがわかる。かれの眼にはその兵士の黒く 逞しい顔と軍隊手帖を読むために卓上の蝋燭に近く歩み寄ったさまが映った。
 三河国渥美郡福江村加藤平作……と読む声が続いて聞こえた。故郷のさまが今一度その眼前に浮かぶ。母の顔、妻の顔、 欅で囲んだ大きな家屋、裏から続いた滑らかな磯 、碧い海、なじみの漁夫の顔……。
(田山花袋「一兵卒」

 花袋は宮川春汀の話を聞いて伊良湖に実際に行っており、その記録は、明治三二年に太陽に掲載された「伊良湖半島」や後の「伊良湖岬」などの紀行文に残っている。上の引用文に表われる「欅で囲んだ大きな家屋、裏から続いた滑らかな磯、碧い海、なじみの漁夫の顔」といった部分は、花袋の体験に基づくイメージだろう。



覗きと遠近法
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