妹背山女庭訓(一松斎芳宗)



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(以下、20030427日記より

 千里から日本橋に移動し、幕見で「妹背山婦女庭訓」の妹山背山の段。これがじつに楽しかった。
舞台中央には吉野川がこちらに向かって流れ込み、両岸は桜、客席はさながらその下流で、客の頭は桃太郎の桃か川中で洗われる芋の子か。一点透視で描かれた上流には桜が小さく迫ってまさに奥ゆかしい。
 川を挟んで舞台向かって右側が大判事と息子久我之助のいる背山の館、左側が定高(さだか)と娘雛鳥のいる妹山の館。太夫も左右に分かれてステレオ効果、親子が揃うと一度に四人の太夫が左右に揃うという、集団義太夫語り。その掛け合いの変化がおもしろい。これ、直筆の床本が見たいなあ。
 雛鳥と腰元たちは、川向こうの久我之助を見やりながらガールズ・トーク。ついにたまらなくなった雛鳥が、文を川に流すと、とたんに仕掛けが動き出し、川の流れは客席に向かってうねり、まるで蠕動運動のように、雛鳥の文を背山の館に送り届ける。。

 川の流れの仕掛けは、いつも動いているわけではなく、川に物語の焦点が当たっているときだけ動く。あたかも窓を開けたときだけ川のせせらぎが聞こえるように、川がにわかに活気づく。簡単なことなのだが、この切り替えで、かえって川が生き物めいてくるからおもしろい。生き物だから、流れとは垂直方向に物を送ってもかまわないのである。

 久我之助が切腹してから、父の大判事は介錯をためらうばかりか、雛鳥の首を待って川岸をうろうろするので、そのあいだずっと久我之助は虫の息でうめいているのである。酷すぎ。ようやく流し雛とともに雛鳥の首が流れ着き、久我之助の首をはねて、両手に首を持ち見栄を切る大判事。あまりのすさまじい筋書きに呆然。



松茂町歴史民俗資料館WWWに同じ作者による錦絵が掲載されている。
 この絵とは異なり、義太夫と三味線の姿が描かれており興味深い。)


覗きと遠近法
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