Tom & Jerry (TV version)

チャック・ジョーンズのTower 12 ProductionがTV版のトムとジェリーを担当したのは、1963年からで、手元のLD Boxには、63年から67年までの作品がいくつか収められている。

「Mice & magic」(L. Maltin) には「それは60年代を通じてもっともハンサムなカートゥーンとなり、短編カートゥーンの中でもひときわすばらしいデザインとなった。唯一の欠点は、おもしろくなかったということだ。」とある。が、ひとつひとつを見ていくと「おもしろくなかった」とまとめるのはちょっと言い過ぎじゃないかという気がしてくる。特に後期になってさまざまな監督が試みた新しいトムとジェリーは、カット割りのテンポがよく、見ていて気持ちがいい。むしろ「Mice & magic」が誉めている「The Cat Above and The Mouse Below(オペラ騒動)」はつまらない。テンポが一定で、間(ま)が平坦だ。テックス・アヴェリーがやった「Magical Maestro(へんてこなオペラ)」と同じ「セビリアの理髪師」が使われているから、ギャグのタイミングと比べるとわかる。

チャック・ジョーンズのシリーズでは、音楽担当者は三人いる。初期はほとんどEugene Poddannyが担当しているが、中期以降はDean Elliott、Carl BrandtとEugene Poddannyが回り持ちをしている。はじめの9作くらいまでは弦楽器とハープが入っていたが、後になって、弦楽器がなくなりハープの代わりにエレキ・ギターが入ることが、多くなった。つまり、クラシックな編成からよりモダンな編成に(そして、おそらくより経費が少なく)なったというわけだ。ぼくは、チキチキマシン、ドボチョン一家といった、60年代ハナ&バーベラのTV版カートゥーンで育ったので、こうした音を聴くと、その頃のTVの雑然とした記憶がわき起こる。なんだか追いかけているのがトムなのかブラック魔王なのか、追いかけられているのがジェリーなのかホッピーなのか、判然としなくなる。

編成は作品によって違うようだが、D. Elliotが使う編成の多くは、フルート2、クラリネット2、ファゴット、(サックス)、トランペット2、トロンボーン2、ピアノ、E.ギター、打楽器、といったところ。打楽器ではシロフォンが使われていることが多い。この編成でくるくる曲調が変わると、ザッパを思い起こさせる。そういえば、ビックフォードの粘土アニメーションにはザッパの曲が使われていた。逆に「ベイビー・スネイク」などザッパがビックフォードのアニメーションを使ったフィルムもいくつかある。じつはザッパは60年代のアニメーションが好きだった、なんて話はあるんだろうか。

映像に合わせて細かいフレーズの変化がいろいろあるのだが、編成が少ないせいもあって、音のテクスチャの変化が乏しい。どんどん滑っていく。この滑っていく感じを、モダンなスピード感と取るか、メリハリを失った平板と取るかで、評価が分かれるだろう。

映画時代とTV時代の音楽を比べるには、Tom Rayの監督した2作品「Matinee Mouse(仲直りはしたものの)」「Shutter Bugged Cat(必殺ネズミ捕り)」を見るとよい。Tom Rayはこの2作品の中で、映画版のシーンをかなり引用していて、そこにTV版の音楽がついているからだ。この比較はいずれ詳しくやってみようと思っている。


(98. 03. 19)


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