台所で結ばれるもの


トム&ジェリーの「Little Orphan ( 台所戦争 )」の音楽は、スコット・ブ
ラッドリーの油の乗った時期のもので、とくに前半の流れるような展開は何度
見ても楽しい。

あらすじはこんなぐあいだ。ある感謝祭の日、ジェリーの下に腹をすかせたチ
ビ助が孤児院から送り込まれる。「一日面倒を見てやってくれ」という手紙を
添えて。二匹は連れだって台所をあちこちするが、チビ助は回りにあるものを
次々と食べてしまう・・・。

ジェリーとチビ助が連れだって歩く下りで、チビ助が、テーブル上のろうそく
をかじるシーンがある。

1.チビ助がろうそくをかじる。
2.ジェリーがチビ助の体をひっぱりろうそくから引き剥がす。
3.そこへ、さっきかじられたろうそくが倒れてくる。
4.ろうそくが当たって、シュークリームに沈むジェリー。

映像だけからも、できごとがどう対応しているかはすぐにわかる。ろうそくをかじったから、ろうそくが倒れた。つまりチビ助がろうそくをかじるということと、ろうそくが倒れるいうことのあいだに因果関係があるのだ。
しかし、音楽は、こうした通常の意味づけから逃れる。スコット・ブラッドリーは、次のよ
うに音楽をつけた。
1.
ジェリーがチビ助の体をひっぱりろうそくから引き剥がす。チビ助のからだが 伸びるのに合わせてトロンボーンの下降グリッサンド。ジェリー、チビ助を降ろす。 ジェリーににらまれるチビ助のバックにオーボエのトリル
2.
ろうそくが次第に倒れるのに合わせてトロンボーンの上昇グリッサンド。ジェ リーの頭にろうそくがあたりシュークリームに沈む。チビ助にのぞきこまれる ジェリーのバックにクラリネットのトリル
つまり、ここでは、
チビ助のからだが伸びること ろうそくが倒れること
この二つが、トロンボーンの上昇と下降によって対応づけられている。さら に、トリルが加わることによって、
からだが伸びる→見る/見られる ろうそくが倒れる→見られる/見る
というできごとのセットになって対応づけられている。 つまり、音楽の論理からいえば、からだが伸びたからろうそくが倒れたのだ。 それは通常の因果関係からすればおかしいけれど、音の上からはそうなっている。 そして、伸びたからだがもたらした「見る/見られる」の関係(オーボエのト リル)は、ろうそくが倒れることで「見られる/見る」関係(クラリネットの トリル)に反転する。 伸びることと倒れることとの間には、階段の上り下りのような明確な対応関係 はない。しかし、音楽は、その二つを反転されたできごととして指し示してい く。観客は、この、本来なら引力の法則からも因果関係からも対応しない二つ のできごとが、なぜか対応させられていることを、まるでチビ助のように見つめ、 受け容れる。そこに笑いが生まれる。 かくして台所では、音楽が因果からこぼれ落ちる。


to Cartoon Music! contents