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20020914







 朝、宿を近くの安い方に変更。朝食付き44ユーロ。まずまずの値段だが、壁がすこぶる薄い。いやがる象をひきずるようなくぐもった低い音がしたかと思うと、ごうんごうんとモーターのうなりが響き、停止するときにまた象がいやがる。どうやらエレベーターの音らしい。

 もう一度BercyでNumiCarta。昨日で一通り満足したつもりだったが、行ったら行ったで、やはりあれこれ発見が。透かし絵はがきはおおよそ全貌を把握したつもり(だが、また予想を裏切るはがきがあるかも)。



 透かし絵はがきに通じるジャンルに「セルロイド」がある。整形しやすいせいだろうか、凝ったカーブの縁取りやレース模様のものもある。が、おもしろいのは、ごく単純に四角いセルロイドはがきがけっこうあること。おそらくは紙とは異なるそのぺらぺらの材質、そしてクリーム色の向こうに裏書きが透けて見える透過性に魅力があったのだろう。裏と表が膜以下になって透けていること。

 蛍光絵はがきの淡さ。光に当てて暗がりで見た瞬間、めざましい輝きが訪れる。それからみるみる陰ってゆき、絵はがきは暗闇にまぎれる。見たいのは輝きだけではない。光が退き、世界が薄墨色に暮れていく。その長い黄昏を何度もなぞるために、絵はがきを繰り返し光にかざし、暗がりに急ぐ。



 ある通りで、ショーウィンドウにプラスチックでできたおもちゃのスライドヴュワーが置いてある。それに気をひかれてするすると店に入り、棚を見回すと、はるか上にヴューマスターが。取り出してもらうと、棚の奥に次から次へと現れる光学おもちゃ。全部取り出してもらう。フィルム式のステレオヴュワーと、携帯式のフィルムヴュワー、そしてパテ・ベビーほどの小さなフィルムの切れ端の入った袋を手に入れた。手のひらほどのジップロックの中に何百枚も詰まっている。シネフィルなら、この中からどれだけの作品を見つけることができるだろうか。ぼくに分かったのは、ディートリヒの姿と、ルビッチのいくつかくらい。

 夜、青山さん田尻さんが泊まっている家で夕食。青山さんが揚げたアーティチョークを一枚一枚剥いては、サトウキビをしがむようにかじっていく。真ん中の柔らかい場所にたどりつくと、そこからは頬ばるほどに口に入れることができる。黄昏のあとの夜のような食べ物。

 ろうそくで透かし絵はがきを見たりした後お暇する。

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