Texture Time - 移動について -



細馬宏通


わたしたちは、「移動」によってすでに記述をなしつつある

今福龍太氏は「クレオール主義」(青土社)の中で
ジョン・ドーストの「書かれた郊外」を参照しながら次のように書く
95.12.4 15:27

たとえば、わたしたちの日常生活のなかで自動車が持つ意味は、
すでに通勤や買い物のための機能的な道具であるという以上に、
ある種の文化的テクストの書き込み行為に加担するための
一つの手段へと変化しつつある。 ・・・ ドライヴィング・シートに体を沈めて車を運転しながら
都市のうえに描くトランジットの軌跡そのものが、
わたしたちにとっての都市経験を語るエクリチュールへと近づいていく。
・・・
こうした、
『書くこと』(writing)と『車を走らせること』(driving)とが
限りなく同一の表現のモードに近づいてゆくようなときに現れる
「記述」のポストモダニスト的位相を、語呂合わせ的な機知も込めて
「オートライティング」(auto-writing)と呼ぶことができる。
95.12.4 20:01

Auto-writing → Auto-pilot


今福氏のテクストに現れる「Auto」あるいは「運転」という単語から
「オートパイロット(自動運転)」
ということばを思い浮かべるネットワーカーは少なくないだろう

「オートパイロット」とは
ネットワークに点在するあちこちのテクストに
自動的にたどりつくための
マクロプログラムのことだ

「運転」?
95.12.4 20:06

ネットワーキング/ドライヴィング

ネットワーカーは
いつから自分のやっていることを
「運転」になぞらえるようになったのだろう?
わたしたちはコマンドを打ち込み
あちこちのSIG、フォーラム、HPを渡り歩くことを
「運転」と呼び
ネットワーキングを車の運転になぞらえる

ネットワーカーはログ(記録)をとりつづける
運転の軌跡はそのままテクストとなる
ネットワーキングとは、今福氏の記述を地でいく
「オート・ライティング」に他ならない
95.12.4 20:14

Auto → Manual

しかし、「自動運転」ではネットワーキングの「運転」は意識されない
「自動運転」のあいだ、ユーザーはパソコンの前にいる必要すらない
プログラムが運転した結果をあとから読み下せばよいのだ

むしろ
マニュアルで(つまり手打ちで)GOコマンドを打ち
その場の思いつきであちこちのテクストにアクセスし連関を探ることで
「運転」は意識される
テクストを読みながら
次の行き先を思案し
また新たなテクストの風景に立ち会おうとする
そのような「運転」
95.12.4 20:17

Auto-writing on network

マニュアル操作であちこちをめぐったログを読み返すことは
単に個々の発言/テクストを読み返すこととは異なる
むしろ発言から発言へ、テクストからテクストへと
移動する軌跡を読み返すことになる

自動運転を止めてあちこちのテクストへと
寄り道をしていく軌跡を
ネットワーキングにおける
「Auto-writing」と考えることができるだろう

ログカッターを使う手を止めて
その軌跡を読んでみよう
95.12.4 20:20

タイムスタンプ

ネットワーク上のテクストには
タイムスタンプが付されている

テクストの時刻

そしてそのテクストをたどる新たな時間、
「運転」のログにもまた
ひとつのタイムスタンプが付される

誰のテクスト、誰のログにも付される時刻
時刻ができごとを想起させる
しかし、そこではどのようなできごとが起こったのか?
95.12.4 20:25

移動すること/書くこと

携帯用のワープロ、パソコンによって
まさに移動しながら書くことをもたらした
キー入力により、震動によってふるえることのない
高速で安定した筆記が可能になった

しかしより本質的な違いはブラインドタッチによってもたらされる
わたしたちは手元すら見ることなく
たとえば車外の移りゆく景色を観ながら
キーボード上の手を動かすことができるのだ

この書き方はじっさいに経験すると
いままでとまったく違う作業であることがわかる
95.12.4 20:46

読むな、書け

これまで
書く、という行為には
読む、という行為が含まれていた

書くことは、自分の書く文字をたどり、読むことでもあった
しかし、ブラインドタッチにより
文字ではなく移動する風景を目にしながら書くことで
書くことから読むことが切り離される

わたしたちは
新しい「writing」を手に入れたのだ
95.12.4 20:50

逃れるできごと

むろん、こうした「書き方」は
単に目の前の「移動」というできごとを
リアルタイムで綴ることではない

読むことで視線はテクストに縛りつけられる
読むことを切り話したとたん
ことばは
書かれたテクストではなく
風景の前にさらされる

ことばは、目の前のできごとによって
リアルタイムで、裏切られていくだろう
95.12.4 21:03

痕跡としての時刻

移動するできごとがことばになるより速く
移動するできごとがことばから逃れていく

そのような時間としてテクストが現われていくだろう

書き手にできることは
できごとを正確に書きとめることではなく
ことばにしなかったできごとのために
ことばを綴ることでしかない

時刻はできごとの起こった証しとしてではなく
できごとが逃れた痕跡として添えられる
95.12.4 21:04

TEXTURE TIME

誤変換?タイプミス?
構うことはない

いま窓の外に目を向けて想起されることを
次々と書き綴ってみよう

移動という一次元、テクストという一次元をなぞりながら
繰り返される風景、繰り返されることばが
この新しい「writing」の織物を綴っていく
タイピングのせわしない音とともに

TEXTURE TIME
95.12.4 21:09

->Texture Time
->Get "Texture Time" (HyperCard Stack for Autowriting)