絵はがきが届く。郵便受けから郵便を取り出す。一枚手にとって手首を軽くひねる。はがきがひらひらと裏返る。色あざやかな絵と差出人の筆跡とがひらめき合う。このほんのわずかな時間のあいだに、絵はがきのすべてが眼に入る。
ひとつかみにした束から一枚また一枚と手に取る。自分宛てではなく、家族や同居人の誰かに宛てられたものが見つかる。しかし、盗み見たという罪の意識はほとんど起こらない。絵はがきはただの一枚の紙切れに過ぎないし、そこには封書のように、何かを含み持つそぶりはない。そこには綿々と綴られた長いことばはなく、ただの「絵」とわずかな挨拶があるに過ぎない。たとえ記された差出人の名前と宛先人との組み合わせに奇妙なところがあろうとも、思わせぶりなことばが閃光のように眼にとびこんでこようとも、わたしは何の秘密にも触れなかったかのようにその一枚を仕分け、正式な宛先人へと手渡すだろう。(第一章「漏れるメディア」から)
「絵はがきの時代」の参考文献や、使用された絵はがきのカラー版を公開するページ「絵はがきの時代補遺」を作りました。読書のお供にどうぞ。
作成:細馬宏通 on 浅草十二階とその浜辺