竹久夢二のコマ絵:『女学世界』(博文館)明治四四年九月号



 竹久夢二は、絵はがきだけでなく、『中学世界』や『女学世界』などの、さまざまな雑誌に「コマ絵」と呼ばれる挿絵を描いていた。これらの挿絵は、小説や文章の内容を表すとは限らず、むしろ、文章の内容とは無関係に、雑誌全体の趣味を示すものであった。

 考えてみると、このような絵と文章との関係は、絵はがきにおける絵と通信文の関係に似ている。
 わたしたちは自分の趣味にあった絵はがきの柄を選ぶいっぽうで、その絵の内容とは無関係に、相手への用事や思いを通信文に綴ることができる。
 そして、このような絵と文の関係は、初期の絵はがきにおいてはいっそう顕著だった。というのも、私製絵はがきが許可された当初、通信文を宛名面に書くことは許されておらず、かならず絵と同じ面に書かれていたからである。差出人の書く文章は、レイアウト上は親密に絵に寄り添っていながら、その内容は絵よりもむしろ相手に宛てられていた。
 夢二のコマ絵は、文との寄り添い方において、きわめて絵はがき的であったと言えるのではないだろうか。

「絵はがきの時代」補遺