『カーネーション』再見 #52

 金糸入りの服は売れに売れているけれど、直子はあいかわらず猛獣。またあの子守の子が出てきた!なんとなくうれしい。

 手に余る直子を、勝は弟のもとに預けることを提案する。糸子はしぶしぶ承知する。

 勝の弟のところへいく道すがら、山道を登っていく糸子と勝。糸子は「こんな遠くやったか?前きたときは、もっとちかなかったか?」勝は「前きたときは手ぶらやったさかい。」と応じる。
 このやりとりをきっかけにことばの堰が切れたかのように、糸子は勝をちらちらと見ながら、ひとりごとともつかぬことを言う。

 前きたころは、結婚したばっかしで、気楽なもんやったな。
 戦争も始まってへんかったし、勘助もおった。
 うちはこどももいんで、もっと若かったし、もっとべっぴんやった。
 色かてもっと白かった、あしかてもーっと長かった。

 これらと引き替えに、糸子はいま直子の重みを背中に負っている。勝と糸子が山道を登っていく、その足取りの時間と、これまでの二人の来し方の時間とが重なる、美しいシークエンス。その終わりぎわに、糸子は背中の直子に振り向く。「な」。

 この短いひとことによって、これまでのシークエンス、糸子と勝の来歴は、まるごときかん気の直子へ捧げられたかのように感じられる。